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本と映画と政治の批評
by thessalonike5


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国民を大きく失望させた党首討論 - 「政治改革」の末路と皮肉
国民を大きく失望させた党首討論 - 「政治改革」の末路と皮肉_b0090336_131468.jpg今回の党首討論は、従前になく高い関心が集まり、日本中が注目して見守った党首討論だったが、蓋を開ければ、何も中身のない、期待はずれの45分間に終わっていた。内容と結果に失望させられた国民は多かっただろう。年末を控え、この討論をきっかけに政治が動き、本格的な景気対策が一刻も早く前倒しされる展開を期待していた国民は多かったはずである。特に中小零細企業の経営者や従業員はそうだっただろう。経済的弱者である高齢者もそうだっただろう。単なる政治ショーの中継や報道を興味半分で見るのではなく、生活がかかった切実な思いで視線を送っていた国民の気持ちを、二人の間の抜けた党首討論は完全に裏切っていた。百年に一度の経済危機の中で国家の政策を論じる党首討論として、この党首討論はあまりにレベルが低く、内容が薄く熱がない。中身は、10日前(11/18)の30分間の党首会談と同じだった。「二次補正を国会に出せ」「出さない」、「二次補正を出さないのなら解散しろ」「政治空白になるのでしない」、「解散しないのは筋が違う」「政局より政策」。



国民を大きく失望させた党首討論 - 「政治改革」の末路と皮肉_b0090336_1311935.jpg新聞は「討論は平行線」と書いているが、実際には「平行線」と評価するほどの内容もなかった。映像を見ていると、小沢一郎が党首討論を逃げまくっていた理由がよくわかる。苦手だから逃げていたのだ。あれを見れば無理もない。この時期、討論で突っ込んで攻め立てて麻生首相を立ち往生させられる材料は無数にあったし、党首討論の結果次第で自民党内に反乱を起こさせ、二次補正を臨時国会に提出させる政治を作ることは容易にできた。政局に何もインパクトを与えられなかったのは、小沢一郎が無能で機会を失したからである。ただ「解散しろ」「二次補正を出せ」の一点張りで、押し問答を繰り返すだけでは、何の有効な展開にも繋がらず、結果を引き出す政治にはならない。簡単に逃げられて終わりだ。二次補正を年内に出せない理由について、根拠を質して切り込めば、麻生首相の発言の中で矛盾や混乱を突くことは簡単にできた。映像を見ても、二次補正を年内提出できない正当な理由はなく、麻生首相はゴマカシて逃げようと内心焦っていて、そこが討論の弱点であることを本人は自覚している顔つきだった。

国民を大きく失望させた党首討論 - 「政治改革」の末路と皮肉_b0090336_1313371.jpg10/30に「要はスピード」と言って発表した「追加経済対策」は、給付金と道路予算と住宅減税と中小企業融資保証枠が柱になるものである。二次補正の関連法案を作成する事務量にどれほどの時間を要するのか。事前に情報を調べ、この法案事務の日程試算を論点にして、そこを攻めどころに麻生首相を詰めて論破することは簡単にできただろうと思われる。10/31から作業に着手して、原案に1週間、与党内調整に1週間、11/14には予算委に提出できただろう。すでに10/30の記者発表の段階で、補正予算案と関連法案の原型はできていたはずで、これらはそもそも官僚から上がってきたもので、10/30の段階で予算案と関連法案が官僚の頭の中に組み上がっていないはずがない。それを最初から臨時国会に出さない方針で臨んだのは麻生首相で、解散引き伸ばしと政権延命のために、わざと来年提出の姦計に仕組んだのである。「追加経済対策」の案を取り纏めていた10月下旬頃は、作業に携わっていた官僚も閣僚も公明党も、二次補正は年内の日程だと誰もが想定していただろう。越年して審議成立させるような悠長な「追加経済対策」だと考えていた関係者はいなかったはずだ。そのことを党首討論の場で暴露すればよかった。証拠はいくらでもある。

国民を大きく失望させた党首討論 - 「政治改革」の末路と皮肉_b0090336_1314921.jpg二次補正の当初の政策過程と麻生首相の政局運営の欺瞞を衝き、二次補正先送りが国民無視の政権延命策である真実を明らかにすればよかった。辻褄が合わなくなる問答進行を周到に計画することは十分にできた。小沢一郎は今回の党首討論に際してディベートの準備を全然していない。討論の戦略を練っていない。米国の大統領選や予備選を見ても分かるとおり、彼らはテレビ討論に全身全霊を傾注し、過剰なほど戦略と戦術を練りに練って用意する。米国ほどは望まないが、人が見ている前で討論をやり、二人で優劣を競うわけだから、もう少し事前に討論内容を設計して、相手の政策や判断の矛盾や過失を暴き出す工夫をするべきだった。菅直人が代表であれば、言われなくても必ずやるし、見せ場を作って相手を追い詰めるディベートを組み立てる。今回、小沢一郎の発言内容を見ていると、本人も討論に勝つ戦略を立てていないし、党内の誰からもアドバイスを受けている様子がない。一人でやっていて、面倒くさい時間を早く終わらせたいという欲求だけで、仕方なく討論台の前に立っていることが窺える。見せ場を作ろうなどという気は微塵もない。討論が苦手なのである。こういう政治の現場が耐えられないほど苦痛なのであり、相手を論破してやろうなどという意欲を持てないのだ。

国民を大きく失望させた党首討論 - 「政治改革」の末路と皮肉_b0090336_13248.jpg小沢一郎はコンプレックスが強く、殿様育ちの傲慢な性格のため、誰かの支援を受けて自分の苦手な分野の知識や能力を身につけるということができない。他人の指導や助言に身を合わせて自己を改造するという訓練ができない。党首討論とは関係ないが、おそらく、小沢一郎はPCも使えないし、ネットも使えないし、携帯電話も触れない人だろう。同じ殿様でも麻生首相が2ちゃんの常連なのとは好対照をなす。小沢一郎も年をとり、何やら可哀想な気もするが、気の毒なのは小沢一郎ではなく日本国と日本国民である。小沢一郎は党首討論に向いていない。陽の当たる表ではなく裏で部下に指図するボスの政治しかできない。テレビの公開討論が重視され、スピーチやディベートの技術と能力が政治家の評価を分ける時代にあって、経世会裏支配の手法で存在感を示した小沢一郎は過去の遺物であり、もはや時代遅れの政治家なのだ。このことは、オバマやブレアのような政治家と政治を理想とする山口二郎や後房雄の「政治改革」が、恐るべき現実政治の復讐を受けて悶絶している歴史の皮肉を示している。小沢一郎を「政治改革」の旗手として担いだのは山口二郎と後房雄だった。そして朝日新聞だった。歴史の逆説に呆然とさせられる。

国民を大きく失望させた党首討論 - 「政治改革」の末路と皮肉_b0090336_1321564.jpg昔の日本の議会政治には党首討論などなかった。それを導入したのは、二大政党制をめざして小選挙区制を導入した「政治改革」のときである。党首討論は「政治改革」の目玉の一つで、それは英国の慣習のサルマネであり、英国政治研究者で政治改革イデオローグだった山口二郎の「誇らしい成果」の一つである。党首討論は、まさに民主党の党首がパフォーマンスするために移植された制度だった。今回、その民主党代表の小沢一郎は党首討論を逃げに逃げ、遂に逃げ切れなくなって、国民の前で泣くように恥をかきながら嫌々やらされている。あれを見ていると、小学校とか中学校の音楽の時間を思い出す。歌の下手な子とか、笛の下手な音痴な子は、それを皆の前でやらされるのは拷問に等しい苦行の時間だったに違いない。小沢一郎を「政治改革」の旗手として絶賛した山口二郎と後房雄は、小沢一郎が党首討論の場で泣きべそをかく事態は想定していなかったのだろうか。二人はもう一度「政治改革」をやり直して、日本の政治風土に合わせて党首討論の制度を廃止するか、小沢一郎を引退させて別の討論上手を新代表に就けるか、民主党のためにどちらかの選択をするべきだろう。「政治改革」から15年、あの無様な党首討論こそ、「政治改革」の失敗を証する全てである。

国民を大きく失望させた党首討論 - 「政治改革」の末路と皮肉_b0090336_132284.jpg「二次補正を出せ」「出さない」、「解散しろ」「しない」で終わった45分間の党首討論に国民は空しさを覚え、政治に大いに落胆させられたに違いない。特に討論の議題にして欲しかった案件が三点ある。一番目に、10兆円の外貨準備資金をIMFに簡単に融資した一件についても訊いて欲しかった。財政難の日本の国庫のどこにそんな大金が眠っていたのか。そんな大金が財務省にあるのなら、国内の社会保障や公共事業に回せないのか。10兆円ではなく5兆円に減らせないのか。10兆円をIMFに融資して本当に資金は返ってくるのか。返ってくるのは何時なのか。日本国民の財産である10兆円は大きい。党首討論で麻生首相に問い質すべき大事な問題だった。二番目に、関心の高い定額給付金を争点にすればよかった。この政策については、公明党以外は全て反対で世論が固まっていて、給付金の白紙撤回は国民の総意と言っていい。11/27の全国町村長大会では、挨拶に立った麻生首相に対して、会場から「丸投げやめろ」と強烈なヤジが飛んだ。給付金問題を取り上げて、国民の声を代弁し、白紙撤回を迫れば、野党議席は大喝采の喚声に包まれ、自民党議席は沈黙して声を出せなくなっただろう。最も民主党側に有利な論点材料だった。なぜ給付金を問題にしなかったのか。なぜ給付金を取り上げて麻生首相を攻めなかったのか。

国民を大きく失望させた党首討論 - 「政治改革」の末路と皮肉_b0090336_1324025.jpgそれから三番目に、やはり、社会保障費2200億円削減の問題と後期高齢者医療制度の問題を討論に取り上げて欲しかった。これから予算の季節になり、マスコミも予算関連の報道が多くなる。すでに自民党内部では、来年の選挙を睨んで、社会保障費2200億円抑制の見直しを求める動きが勢いを増している。朝日新聞など官僚の代弁者であるマスコミは、相変わらず小泉改革路線のままで、社会保障費をバラマキだとして「聖域なき削減」を言い続けているけれど、選挙で有権者から票をもらう議員の心はすでに構造改革から離れている。国民の声を代弁して、2200億円の社会保障費削減の撤回を麻生首相に切り込めばよかった。決断しろと迫ればよかった。間もなく後期高齢者医療費の3回目の年金引き落としの日も来る。時機を考えれば、ここで後期高齢者医療制度について討論の議題にすることは、民主党の支持率のためにも有効だったはずだ。その討論の中で、例の「何もしない人の分なぜ負担」の失言問題を取り上げれば、効果はさらに大きかっただろう。病気で苦しむ高齢者や病気の不安で悩む高齢者を憤慨させた直後であり、麻生首相に後期高齢者医療制度見直しについて発言させる絶好の機会だった。高齢者は党首討論のテレビを生放送で見ている。マスコミが編集できない全ての発言と映像が出る。病気になるのは自己責任と暴言を放った真意を問い質せばよかった。

国民を大きく失望させた党首討論 - 「政治改革」の末路と皮肉_b0090336_1325383.jpg小沢一郎は肝心なことを何も聞いていない。何故これほど麻生首相を助けてやるのだろうと疑ってしまうほど、重要なポイントを外した主張と討論に終始して時間を潰している。これはしかし、事前に麻生首相と根回ししたのではなく、実は小沢一郎の頭の中がカラッポなのだ。11/18に官邸で党首会談したときから何も考えてないのである。今度の党首討論に期待して、小沢一郎が麻生首相を動かして、一歩でも二歩でも前向きな経済対策へと政治が動く変化を願った国民は多かったはずで、それは自民党支持の保守層でも同じだっただろうと思われる。これまで浮気せず自民党だけに投票してきて、それでも今回は麻生首相の経済政策があまりに無茶苦茶で無内容なので、次の選挙で民主党に期待を託そうかと思っていた人間は多かっただろう。それを確かめる党首討論だったが、討論を見終えて、やはり民主党には期待できないと思い直したのではないか。麻生首相も不真面目だが、小沢一郎も真剣ではないのである。真剣ではないということが国民には分かる。何も考えてないということが国民には分かる。小沢一郎の討論で見えるのは、解散というお膳、すなわち政権という獲物に涎を垂らす猛犬の欲望だけだ。小沢一郎本人は、例によって一芸の朴訥演出で、正攻法で正論を言ったと思っているかも知れない。だが、日本経済や国民生活のことを本気で考えているなら、もっと知恵を絞った中身のある討論はできたはずなのだ。

無策と無能なのは小沢一郎も同じだなと、自民党支持の保守層有権者は思ったに違いない。また、それが麻生首相側の狙い目であり、だからこそ、繰り返し執拗に、嫌がる小沢一郎に党首討論を求め、何度も何度も「党首討論をやりましょう」と誘うのである。

国民を大きく失望させた党首討論 - 「政治改革」の末路と皮肉_b0090336_133667.jpg

by thessalonike5 | 2008-11-29 23:30 | 政局
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