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本と映画と政治の批評
by thessalonike5


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中国が世界金融の覇権を握るとき(2) - 人民元の改革と国際化
中国が世界金融の覇権を握るとき(2) - 人民元の改革と国際化_b0090336_1253482.jpg中国が人民元を現行の「管理変動相場制」からリムーブさせるときは、マイルドな合意を通じてではなく、一方的な決断と宣告というドラスティックなプロセスとして現出し、世界に大きな衝撃を与えるのではないか。絶えず人民元に切り上げ圧力がかかり、米国内からは中国側の不当な「為替操作」が批判される人民元とドルの不均衡な関係は、中国に超大な貿易黒字を齎すと同時に、その中国マネーが米債購入資金となり、米国経済に過剰に潤沢なマネーサプライを与えて、ここ数年の米国の景気拡大の原動力になってきた。したがって、不当に安い人民元の為替によって打撃を受けていると米国がどれほど主張しても、それは実体経済(メインストリート)の側の論理であり、金融経済(ウォールストリート)の側の論理ではなく、マネタリズムの本音を白状すれば、中国からの資本供給が多ければ多いほどいいという政策の結論だった。すなわち、歪なドル高人民元安の水準で調整されてきた為替実態は、米中間の暗黙のWinWinであり、双方の利害に合致するマネーのメカニズムであった。



中国が世界金融の覇権を握るとき(2) - 人民元の改革と国際化_b0090336_1265031.jpg人民元の自由化は、その米中間のWinWinの紐帯を切断することに他ならない。貿易黒字で米債を買って米国経済を支え、米国の消費を中心的起点として一つの世界経済が循環する仕組みは、起源を辿れば70年代の中東オイルマネーの還流から始まるのかも知れない。その後、80年代からは膨大な日本マネーが入り、今世紀からは中国マネーが主役になった。欧州はユーロを作ったが、ユーロ経済も中身を見ればドル経済から独立しておらず、新自由主義の金融バブルの余波を授かって景気拡大していたに過ぎなかった。住宅や東欧新興国の金融市場に投機をしてバブルを発生させ、投機バブルで好景気を持続させていたのである。もっとも、その投機資金を円キャリーで欧州に供給していたのは日本だったが。世界は新自由主義経済(グローバル経済)として一つになっていた。一つになったグローバル経済の艦隊の旗艦が米国であり、中国経済は言わばその艦隊の中の一隻として組み込まれた存在だった。すなわち、中国が人民元自由化に踏み切るということは、中国がそのグローバル艦隊から離脱することを意味する。

中国が世界金融の覇権を握るとき(2) - 人民元の改革と国際化_b0090336_126998.jpg護送船団から離れて単独で航海を始める。中国にとっても未知の孤独な航海が始まるが、ドルのグローバル艦隊の編成は崩れ、バランスを失い、旗艦は右往左往して航行不全の状態に陥る。ドルは間違いなく暴落する。ドルの通貨下落によって米国内の輸入物価は高騰し、不況に物価高が追い討ちをかける経済危機に襲われるだろう。80年代に中南米諸国が経験した現実と似た状況が米国で起きる。生活必需品が値上がりして、米国の国民は生活水準の切り下げを余儀なくされる。米国民は生まれて初めて為替の恐怖を実感する。これまで、米国の企業も国民も、為替変動や為替リスクというものを知らなかった。それは米国以外の諸国の国民が被る損害であり不安だったのである。ディスアドバンテージはドル経済の外に住む人間に押しつけられてきた。米国人で為替変動の不具合を知るのは、偶々日本に駐在して円高を経験し、ドルで受け取る給料が目減りする生活の困惑を知った一握りの人間だけだった。グローバル艦隊から中国が離れるということは、米国経済が相対化されるということであり、ドルが世界経済の全てではなくて一部になることを意味する。

中国が世界金融の覇権を握るとき(2) - 人民元の改革と国際化_b0090336_1254979.jpg中国は人民元自由化に踏み切るだろうか。ここで少し通貨をめぐる最近の中国の動向をサーベイしてみよう。この問題に関して、最もショッキングだった出来事は、10/24の人民日報1面に掲載された石建勲の論評である。詳細は前の記事で紹介したので繰り返さないが、論評では、「今後、アジアと欧州の間での決算は、ユーロ・ポンド・人民元・日本円などで行うことを検討しなければならない」と言い、ドル単一の決済システムから離れる方向性を明確に提唱している。この石建勲の論評について、田中宇は記事の中で中国の上層部の意思を示したものではないという見方をしていたが、私の見解は少し異なる。人民日報は中国共産党の機関紙であり、中国はそれほど言論の自由や多様性が認められた国ではない。党上層部の意思や認識を反映しない主張が党機関紙の第1面に掲載されるなどということは考えられない。共産党は鉄の規律の一枚岩の軍隊的組織であり、下部は上部に従い、支部は中央に絶対的に服従する。中央の意思とは無縁な論評が機関紙1面を飾るなどあり得ず、中央の意向に反した論評は活字になる前に排除されるし、場合によっては査問の対象となる。厳しい自己批判を要求され、党籍剥奪と追放という粛清の憂き目に遭わされる。それがレーニンの党のである。

中国が世界金融の覇権を握るとき(2) - 人民元の改革と国際化_b0090336_1263570.jpg石建勲の過激な主張は、必ず中央政治局常務委員会で事前に検討されているし、世界の注目が集まるASEM首脳会合初日のタイミングを計った上で、戦略的に周到に党が発表したものだ。胡錦濤自身も目を通している。あれだけの衝撃的な内容の論評を中国共産党のメッセージとして公開発信するに際して、党総書記の胡錦濤が裁可していないはずがない。石建勲の主張は胡錦濤本人の内心のメッセージと解するべきであり、仮にそうでなければ、胡錦濤は党内で実権を持っていないということになる。それを証拠づける事実ということではないが、ASEM首脳会合から3日後の10/28、モスクワでエネルギー協力の会談をしたプーチンと温家宝は、両国貿易の決済を人民元とルーブルの通貨に切り替えて行く旨を発表し、世界の報道機関で大きなニュースとして取り上げられた。最も直近の報道記事になったものとして、中国人民銀行前総裁の呉暁霊の発言がある。中国の金融当局の実務方面から出ている発言をネットで拾うと、そこには一貫したキーワードがあり、それは「人民元の改革と国際化」である。呉暁霊は「人民元を完全な兌換通貨に改革するプロセスを加速すべき」と語っている。中国金融当局の言う「人民元の改革」の最終目標は、どうやらわれわれの言う「自由化」であり、変動相場制への完全移行を意味している。

中国が世界金融の覇権を握るとき(2) - 人民元の改革と国際化_b0090336_12173098.jpgもう一つ、「人民元の国際化」という表現がよく使われる。これは「自由化」を意味する「人民元の改革」とは意味が異なるようで、注意して記事を拾い読んでいると、どうやら人民元決済の商圏を押し広げることが政策目標であるらしい。今年の4月に書かれた北京週報の記事を読むと分かりやすいが、これまでドル建て一本だった中国の貿易決済を、徐々に人民元決済のシェアを増やして行こうとする動きであり、中国社会科学院金融研究所の曹紅輝が具体的に地域名と現状を紹介しながら、中国の「人民元国際化」の戦略を語っている。この記事は非常に面白い。「人民元国際化」の戦略の中身が簡潔ながら一目瞭然となっている。まずラオスであり、次にベトナムとモンゴルであり、そしてネパールとミャンマーであり、カザフスタンであり、上海協力機構加盟の中央アジア諸国である。これらの国々での人民元流通を面として拡大する。これらの国々での「国際基軸通貨」の地位を人民元が得る。これらの国々では、すでにドルに代わって人民元が「国際基軸通貨」になりつつあるのであり、これらの国々にとっての必要準備外貨がドルではなく人民元に置き換わりつつあるのである。この記事は4月掲載であり、曹紅輝の言葉も控えめで、「今後十年間で人民元はアジアの主導通貨となれるにすぎない」と言い、そのために必要な「自由化」にも時間がかかると言っている。

中国が世界金融の覇権を握るとき(2) - 人民元の改革と国際化_b0090336_127776.jpgこの曹紅輝の慎重論が中国の通貨政策の基本線であり、今でも政策実務レベルはこの線上で漸次的に人民元の「改革」と「国際化」を進めている。それは、具体的には、中国の商業銀行を強化することであり、国際金融市場で欧米の金融機関と対等に競争して事業できるレベルに育てることである。それには時間がかかる。だが、9月以降の金融危機の情勢があり、ドルで抱えている米債資産の減価危機があり、中国の関係者の意識も少なからず変わり、実務者ではない石建勲のような立場からは、一歩も二歩も踏み込んだ過激な発言が飛び出るようになった。ドルのグローバル艦隊から離脱し独航する日程は、金融当局者の当初の予定より早まる気配が濃厚であり、政策実務者の準備が万全でないうちに見切り発車を余儀なくされそうである。胡錦濤は党総書記であると同時に国家主席であり、石建勲も呉暁霊も自分の部下である。二つの方向のバランスの上に胡錦濤は立っている。改革と飛躍の両方をやらなければならず、決断の時は刻一刻と迫っている。10兆円がIMFに喜ばれて上機嫌になった麻生首相は、国内で失言を重ねてボロ雑巾のようになり、束の間の休息をとるために太平洋を渡るが、胡錦濤主席の方はG20サミットから本国に戻らず、そのままコスタリカとキューバを歴訪してペルーに入った。経済同伴団を引き連れて資源外交を精力的にやり、台湾承認国の多い中米カリブ諸国に揺さぶりをかけている。帰りはギリシャに立ち寄る。タフな指導者だ。日本の無能で驕慢な世襲三世の愚物とは違う。

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by thessalonike5 | 2008-11-21 23:30 | 世界金融危機
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