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本と映画と政治の批評
by thessalonike5


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ワールドオーシャンファームの心理学 - 小泉改革・平成維新・政治改革
ワールドオーシャンファームの心理学 - 小泉改革・平成維新・政治改革_b0090336_15181972.jpg昨日(7/2)、エビ養殖詐欺のワールドオーシャンファーム事件が一斉に報道された。全国3万5千人から約850億円が騙し取られている。規模が大きい。典型的なマルチ商法だが、同じような巨額悪質商法事件が年に一回か二回は報道される。昨年は3月に平成電電事件(被害額490億円・被害者1万9千人)があり、また同じ6月にはリッチランド事件(被害額540億円・被害者1万8千人)があった。平均して一人あたり200万円から300万円を出資して被害に遭っている。ニュースを見ながら、誰もがまたかと思い、どうしてこの人たちは簡単に騙されるのだろうと思ったはずだ。繰り返し同じ事件が起き続ける。何の事件だったか忘れたが、15年ほど前に同様なマルチ商法が摘発されたとき、あまりに類似の事件が続くので、「ニュースステーション」で久米宏が呆れながら、「浜の真砂は尽きるとも」と言ったのを覚えている。朝日新聞の記事によれば、騙された被害者の中心は中高年女性なのだそうだ。



ワールドオーシャンファームの心理学 - 小泉改革・平成維新・政治改革_b0090336_15185261.jpg悪質商法で騙されて被害に遭うパターンを見ていると、例えば法の華三法行もそうだったが、そこには何となく共通する問題の構図があるように感じられる。①簡単に騙される中高年女性、②カリスマ的雰囲気を偽装し演出した教祖、③単純な世界観の信仰とスローガンの連呼、④自分自身による布教活動(マルチ勧誘活動)、⑤広告塔となる有名人、等々である。そして、これは私の想像であり仮説だけれど、これらの悪質な詐欺事件というのは、ひょっとしたら同じ人間が何度も何度も被害者になっていて、懲りずに騙され続けているのではないかと疑うようになってきた。それは、眼前のネットの世界の政治模様を眺めながら、ふとそう思ったのである。この構図は政治にも適用できるのではないか。選挙で政党が有権者から票を取って後で裏切るのは厳密な詐欺罪ではない。だが、市民社会が発達して民度の高い欧米の国々では、日本ほど簡単に公約や政策で政治家が有権者を騙す行為は難しいのではないかと思われる。

ワールドオーシャンファームの心理学 - 小泉改革・平成維新・政治改革_b0090336_15191694.jpg民主党応援団として毎日精力的にネットで布教活動しているブログ左翼の諸君に率直に聞きたいが、あなたは7年前の小泉改革を支持した過去があるのではないか。さらに続けて問い尋ねたいが、あなたは16年前の大前研一の平成維新を信じた恥ずかしい経歴をお持ちなのではないか。加えてこっそり教えて欲しいが、あなたは17年前の山口二郎と細川護煕の政治改革に期待して支持した一人ではなかったか。自分の胸に手を当てて考え、正直に本当のことを教えて欲しい。小泉政権が誕生した7年前の2001年4月、毎日新聞だったか、TBSだったか、支持率90%という異常な数字が出された。あのとき、調査の中身では、社民党や共産党の支持層でも小泉新政権への支持率が過半数を超えていた。そんなことがあるものかと私は思ったが、同時に、自分は日本国民の中の10%の少数異端に属する人間なのだということを思い知り、その後に予想される新自由主義の暴風雨の中で我が身にどのような厄災が降りかかるかを覚悟せざるを得なかった。

ワールドオーシャンファームの心理学 - 小泉改革・平成維新・政治改革_b0090336_15193239.jpg君は10%の中に入っていたか。無論、90%の側に属していたからと言って咎められるものではない。夏になっても支持率は80%ほどで推移して、7月末の参院選で小泉自民党は軽く圧勝した。小泉改革に騙されたと今は誰もが言う。だが、90%に心当たりがある者は、小泉改革を信じ期待した自分が事実として存在したことを忘れてはいけない。それはわずか7年前の話である。これから1年後、2年後の時点で、君が小沢一郎の政権交代に騙されたと言っていないという保証はあるだろうか。その確信を持っているか。騙されやすい人間は信じ込みやすい人間である。私の推察は恐らく間違っていない。今、狂信的に小沢一郎の政権交代にコミットしている人たちは、7年前に小泉純一郎の構造改革に熱狂的に手を振った人たちだ。16年前の大前研一の平成維新に共感して声を上げた人たちだ。17年前の山口二郎の政治改革を素朴に受け入れて支持した人たちだ。そして、それら全てに騙されてきた人たちだ。騙され、騙され、それでもまた、自分を騙してくれる相手を追い求め、政治スローガンを探してきた人たちだ。

ワールドオーシャンファームの心理学 - 小泉改革・平成維新・政治改革_b0090336_152055100.jpg騙されやすい人間には共通のパターンがある。「XXちゃんと共闘する」とか、「○○さんにエールを送ります」とか、客観的に見ればリスクの大きなコミットメントを安直に表明してしまう。言論者としての立場を失う失敗と悔悟のリターンに逢着することが、傍から見ていると見え透いているのだが、敢えて度胸のよさを誇示するかのように(悪質商法の)契約書にサインをしてしまう。そしてサインをした瞬間、マルチ商法と同じように、今度は自分が勧誘者となって同調者をネットの中に求めて宣伝扇動を始めるのである。そのようにして、彼は「ユダヤ陰謀論」にコミットして布教活動家となり、「サイクロン大地震陰謀論」にコミットして布教活動家となり、「痴漢犯罪者は国家の陰謀による冤罪被害者論」にコミットして布教活動家となる。彼が一般の人間と違うのはコミットのリスクを無視することである。リスクを無視してコミットを濫発し、そして今度はコミットを一瞬でキャンセルする。キャンセルして暴れる。リスクを無視できるのは、これまでコミットのリスクによるトラブルを無数に抱えてきて、習慣化して、言わばトラブルの遍歴に慣れっこになっているからだ。

ワールドオーシャンファームの心理学 - 小泉改革・平成維新・政治改革_b0090336_15223630.jpgワールドオーシャンファームもマルチである。マルチで騙されて被害を蒙った中高年女性の多くは、同時に、自己がマルチの勧誘者となって二次被害者を作り出していた人間でもある。彼女を傍から観察していた人たちは、きっと「ああ、またやっているよ」と思ったのではないか。悪徳商法の被害の心理学というのは、単に軽薄に儲け話に乗ってしまったというだけでなく、ある種の常習性や反復性の要素があり、そして自分を中心とした信仰小集団を作りたいという自己実現欲求が内側に隠されているように思われる。そして、マルチ商法の二次被害に遭った人の真相というのは、単に儲け話にスケベ根性を出してしまったというだけでなく、勧誘してきた人間との人間関係や信頼関係があり、強く断れないままに、優柔不断に金の出資に応じたという側面もあったのではないか。これをネット政治に置き換えれば、胡散臭いTBだけれども、その人間との政治的協調関係を壊すわけにはいかないから、怪しげな陰謀論記事のTBを受け付けたままにしておくという行為になる。TBを送った側は、見事に布教を浸透させた成果になり、準同調者を増やし得たという達成になる。

ワールドオーシャンファームの心理学 - 小泉改革・平成維新・政治改革_b0090336_15362718.jpgユダヤ陰謀論や疑似科学はその虚偽の蓋然性が高く、中身に立ち入る前に一蹴するのが容易だが、これが痴漢犯罪者冤罪論になると、すでに熱烈で強力な信者たちが結集して表通りで布教活動を展開しているため、立場的に複雑で、忽ち判断が難しくなり、周囲の様子をキョロキョロ窺う面倒な事態に直面する。誰もが自分を少数派に置きたくなく、少数派としての弁明主張や事実調査の煩瑣と責任を負いたくない。安全な(多数派の)立場に身を置きたいから、それを内心は不審に思っても迂闊に声を上げられない。さらに、民主党の政権交代論となると、それを邪教だと言っているのは荒野の預言者ヨハネ一人であり、大多数が信じるものだから安心して信じられるのである。信じる者は救われる。そして信じる者は騙される。騙された後でないと騙された事実に気がつかない。シニカルな予想を立てるとすれば、総選挙後に小沢一郎が裏切って大連立政権ができ、小沢信者は騙された事実に怒るだろうが、おそらくそのときは、別の誰かが別の政治スローガンを立てて、新しい騙しの政治の布教を始めているのである。

中高年女性たちは、今度はその信者となっているに違いない。そして当然の帰結として、コミットメントが強ければ強いほど、その悔悟と憎悪の反動もまた強くなる。一年後、政権交代に裏切られたとき、彼はこう言っているに違いないのだ。「安倍晋三は許せても小沢一郎だけは絶対に許せない」。

ワールドオーシャンファームの心理学 - 小泉改革・平成維新・政治改革_b0090336_15225962.jpg

【世に倦む日日の百曲巡礼】

今日の一曲は、1973年に公開された仏米合作映画 『パピヨン』 の主題曲を。

懐かしい。作曲はジェリー・ゴールドスミス。この曲が日本でヒットしたときに歌っていたのはアンディ・ウィリアムスでしたが、ご紹介するYouTubeはフランス語の女性歌手のもの。英語の歌詞の一節が頭に残っていて、サビのところで、Free as the wind  Free as the wind  That is the way you should be  と歌っていました。

主演はスティーブ・マックイーン、助演がダスティン・ホフマン。南米仏領ギニアの過酷な刑務所から主人公が脱走して、断崖から大西洋に飛び込むラストシーンが印象的でした。


映画は四半世紀前のものですが、仏領ギニアは2008年の現時点でまだ独立してないんですね。これは意外。フランスは海外領をしぶとく手放さないですよね。隣のスリナムは1975年独立で、映画公開時は蘭領ギニアでした。隣の隣のガイアナは元英領ギアナ。英・蘭・仏と並んでここに植民地があったということは、アフリカから運んできた黒人奴隷を南米大陸に揚陸する奴隷貿易基地だったということでしょうか。

ちなみにブラジルは、北へ上がるほど肌の色が黒くなります。南へ下がるほど色が白くなります。真ん中のサンパウロがアジア系(日系)が多く、つまり大雑把に、北から南へ、原住民、黒、黄、白の分布なんですね。しかも、サンタ・カタリーナとかリオグランデ・ド・スルのような最南端の州は、多数派のラテン系(葡・西・伊)ではなくて、少数派のアングロサクソン系が多く住んでいるのです。涼しい場所を好むわけです。面白いですよね。

by thessalonike5 | 2008-07-03 23:30 | 政局
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