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欺瞞は誠実である - 宮崎駿の二重思考(ダブルシンク)
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前回の記事で、映画「風立ちぬ」が、特にヨーロッパの観客を意識して製作された作品で、もっと率直に言えば、ベネチア映画祭での賞取りを狙ったものだということを指摘した。それに関連して、このアニメの声優の問題がある。堀越二郎の声の役に庵野秀明を当てた件だ。非常に評判が悪い。あまりに素人丸出しで下手糞なので、耳障りで、物語の世界に入り込めないという苦情を言う感想が多い。これは同感だ。映画を見ながら、「この台詞はNGで録り直しだな」と思った場面が何か所もあった。9/1に引退の一報があった後、テレビに加藤登紀子が出てきて、「紅の豚」で同じ台詞を20回も録り直しさせられたという逸話の披露があった。「ハウルの動く城」では、噴水の音のリアリティに拘ったために、わざわざレマン湖まで収録に行ったという自慢話もあった。同じ宮崎駿が監督したとは思えないほど、庵野秀明の声優演技はお粗末で、ドラマの感動を盛り上げる重要な場面をぶち壊しにしている。巨匠監督による意表をついた素人の大胆な起用が、斬新な演出効果となって成功する例もないわけではない。黒澤明の「影武者」がそうだろう。巨匠になると、常識破りの手品で世間を驚かせたくなるものだ。だが、今回の庵野秀明の抜擢は明らかに失敗で、「巨匠最後の作品」に泥を塗る結果となった点は否めない。悪ふざけにしか思えない、尋常でない放逸な声優のキャスティング。ここには作為がある。
by thessalonike5
| 2013-09-05 23:30
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