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本と映画と政治の批評
by thessalonike5


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ニューズウィークの「社会主義化するアメリカ」特集と米国の気分
ニューズウィークの「社会主義化するアメリカ」特集と米国の気分_b0090336_12312552.jpgニューズウィークの2/25号の特集タイトルは『社会主義化するアメリカ』で、「大きな政府」の問題と銀行国有化の問題が論じられている。と言っても、記事の中身はさほど詳しいエコノミクスの議論が紹介されているわけではなく、日本で言えば、週刊東洋経済や週刊エコノミストではなくて、せいぜい週刊朝日とか週刊文春の記事のレベルを少し上げた情報に過ぎず、専門家ではなくジェネラルな論説者の記事で内容が構成されている。インテリジェンスの深さや高さを感じさせる分析の提供は特になく、米国経済の現状や動向についての知識を得る目的にも適わない。ただ、米国の現在の気分を知ることができる。それはよく反映されている。ニューズウィークは日本でどれほど売れているのだろう。この雑誌を国内で商品として購入する層の需要と動機を考えると、新自由主義のイデオロギー支配という問題が否応なく思い浮かんでくる。週刊朝日や週刊文春の英語版が米国で売られ、それを多くの米国人が「有用情報」として積極的に購読する図などおよそ想像できないが、われわれがやっていることはそういうことだ。



ニューズウィークの「社会主義化するアメリカ」特集と米国の気分_b0090336_1231357.jpg私は昨年の10/10のブログ記事で、FRBによる銀行株買いや企業のCP買いの事態について、「まさに米国経済の社会主義化である」と書いたが、この見方や意識が米国で広まって、人口に膾炙され、日常の空間で論議されるようになっている。ニューズウィークの記事の論調は、認めたくはないが、米国経済の現実が純粋な資本主義から社会主義的な性格に変わりつつあるということを認めざるを得ないという認識の承認であり、そのことに対して屈折した気分が横溢した内容になっている。論者も読者も「社会主義」という言葉はネガティブなシンボルなのであり、社会主義が反感と嫌悪の対象でしかない米国の読者に対して、ややもすれば挑発するような刺激的な口調で、現実は「社会主義化」しているぞと言っている。この「挑発」は売れるのだ。内心の痛いところを刺激し、米国人の敗北感の心理に寄り添って癒しをかけ、と同時に、レーガン以来30年間、禁忌と侮蔑と一蹴の対象であった社会主義的なものに対する恐る恐るの内在的アプローチをも開始していて、米国人の内面の葛藤をよくあらわしている。早い話が、これから米国は「社会主義」のお世話になるのだ。

ニューズウィークの「社会主義化するアメリカ」特集と米国の気分_b0090336_12314924.jpgニューズウィークの記事では、米国経済が欧州型になっている状況について、GDP全体に占める政府支出の比率の変化が示されている(P.18)。10年前の米国の政府支出は、GDPの34.3%で欧州は48.2%だった。それが2010年には米国が39.9%で欧州が47.1%となり、米国における政府支出の比率が高まり、米国経済の欧州型への接近の事実が説明されている。今後、公共投資と社会保障費の支出がさらに伸び、米国の民間での投資や消費に伸びが期待できず、米国経済はより欧州型への傾斜を強めるだろうと予測されている。そしてまた、政府が介入する欧州型の経済は成長率の低下をもたらすという素朴な懸念も表明され、米国の本来の姿ではないと嘆きも入っている。このニューズウィークの記者たちが根本的に間違っているのは、米国に産業を創出する力があると思い込んでいる点で、この20年間の米国経済の繁栄が、ドルという国際基軸通貨の魔法によって媒介されたという意識が欠落していることだ。新自由主義グローバル経済のストラクチャーという概念がなく、何によって米国が過剰消費ができていたかという内省がない。さらにまた、米国が技術を持ってないという深刻な事実に目を向けていない。

ニューズウィークの「社会主義化するアメリカ」特集と米国の気分_b0090336_12315828.jpg社会主義の言葉に嫌悪感を抱こうが抱くまいが、米国の金融市場に世界のマネーが流れ込む循環構造は崩壊した。ウォール街発行のドルの金融商品が世界で売れる環境は消滅したのであり、米国は必要な資金を国内の産業で生み出すか、自国で採掘した地下資源を売るか、国債を中国と日本に買わせてマネーを掴み取るしかない。この記事には、残念ながらストラクチャーの視角で経済を見る感覚がなく、問題の根本要因が理解されていない。ただ、フリードマン的な新自由主義からケインズ主義へとスタンスを変えている。眼前のオバマ政権の経済政策しか方途がないことを認め、現実を追認するように、渋々と頭を新自由主義から切り換え、読者にそれを消極的に促している。1年後には、ニューズウィークはケインズ主義の雑誌になっているかも知れない。記事は、これから高齢化が進む米国の国民が、公的年金の充実や医療保険の整備を求めるようになり、そうなるとフランスや英国のような社会保障制度の国となり、米国の経済活力が薄れてしまうという不安を垂れる議論になっている。新自由主義の繁栄の経験と思考から簡単には脱け出せないのだ。高齢化がいやなら、アフリカなどの最貧国から若年移民を大量に入れるしかない。

ニューズウィークの「社会主義化するアメリカ」特集と米国の気分_b0090336_123288.jpg特集の中で、注目を引く記事として、「銀行国有化はタブーにあらず」という主張があった(P.24)。署名はハーバード大学のリチャード・パーカー。ここでは、きわめてストレートな結論が提出されている。曰く、「実際、最新の経済予測をみるかぎり、問うべきなのは大手金融機関を国有化するか否かではない。どのように国有化するべきかを考えなければならない段階だ」。米国の銀行の国有化問題については、2週間ほど前のサンデーモーニングで金子勝が話題にしていた。次の金融危機を防ぐためには、政府はすぐに国有化を決断実行しなくてはならず、そうしないかぎり、公的資金を無駄にだらだら流し込み続けた挙句、全ての銀行が破綻することになると指摘、ウォール街の論理でしか政策を構想できないガイトナーをただちに財務長官から解任すべきだと過激な批判を言っていた。パーカーの記事はそこまで強烈ではないが、国有化以外に選択肢がないことを語り、米国の国民が銀行国有化にどれほど社会主義のアレルギーを感じても、現在の経営者に銀行を任せるよりは政府に委ねた方が賢明で得策だと諭している。そして、米国経済の発展史における公的セクターの貢献と意義を諄々と読者に説得している。米国経済は決して市場の自由放任で発展したのではないと、そう歴史に遡って説明が与えられている。

ニューズウィークの「社会主義化するアメリカ」特集と米国の気分_b0090336_1232193.jpgこうした議論が米国で出てくるだろうと予想していたが、この動きは歓迎して見ることができる。この銀行国有化の問題に関して、経済評論家の山崎元『シティグループ国有化の可能性に注目』と題した記事をネットに上げている。結論は金子勝と同じで、シティを早期に国有化すべしであり、景気対策のパッケージを打ち上げることで銀行の抱える不良債権の下げ止まりが期待できると踏んだガイトナーの判断の甘さが批判されている。今、米国で問題になっている争点は、銀行全体の不良債権がいくらかという金額の推定であり、それが当局から明確に出て来ないことに対する苛立ちと困惑である。10年前の日本と全く同じだ。あのとき、不良債権処理のために大蔵大臣になった宮沢喜一は、「不良債権の明細なんて表に出せっこありませんよ」と堂々と言い放った。現在では、銀行の不良債権の実態は政府(大蔵省)も誰も知っていなかったという話になっている。そういうストーリーで固まっている。だが、それは嘘だ。大蔵省は全てを知っていた。日本の銀行は大蔵カンパニーの各事業部のようなものであり、幹部は大蔵省の天下りが占め、経営情報は全て大蔵省の銀行局に報告されていたからだ。表に数字を出せばパニックになり、大蔵省の責任問題になるから出さなかった。数字を出せばさらに不良債権が膨らむから出さなかった。

ニューズウィークの「社会主義化するアメリカ」特集と米国の気分_b0090336_12322965.jpg現在の米国も全く同じで、当局は実態を曖昧にして隠蔽しながら処理を進めようとしている。そして、それは必ず行き詰まって破綻するか、あるいは長い時間と忍耐を強いる結果となる。米国政府の内部でも、おそらく銀行国有化について意見が割れていて、明確な判断ができず、楽観論者で専門家のガイトナーに任せざるを得ないのだろう。国有化の衝撃と影響は大きく、市場原理主義を掲げてきた米国の威信を決定的に傷つける。そして国有化すれば、経営は政府の責任になる。誰かに失敗の責任を押しつけることはできない。果断な判断力と実行力を持った指導者がいなければ、簡単には国有化はできない。ガイトナーが国有化に踏み切れないのは、単にイデオロギー的な問題ではなくて、若い彼に事態を乗り切る自信と展望がないからだ。銀行を国有化するとなると、全ての銀行を一挙に国有化しなくてはならないし、その経営を現在の経営者ではなく自分で一手に引き受けなくてはいけない。途方もない額の公的資金を入れなくてはならないし、議会で共和党と真っ向から対決しなくてはいけない。スキームを作って政策発表した時点で、共和党と保守派から猛烈な反発が出るだろう。ニューズウィークなどが銀行国有化を肯定する世論の地ならしをするのは悪くないが、それを実行できる指導者の不在という問題はどうしようもない。実際のところ、この政策を断行すれば、金融だけでなく経済全体を政府がマネジメント(計画経済)することになる。

考えられる具体的なシナリオとして、国有化の前に、シティグループとバンク・オブ・アメリカとJPモルガンチェースを経営統合するステップがある。そこまでならガイトナーでも決断ができる。3か月以内に結論が出るだろう。

ニューズウィークの「社会主義化するアメリカ」特集と米国の気分_b0090336_12324419.jpg

by thessalonike5 | 2009-02-25 23:30
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