拝啓、議員がご活躍される様子を毎日マスコミで拝見させていただいている国民の一人です。今日は派遣村の問題でお尋ねとお願いの手紙を出すことにしました。
新聞記事によりますと、片山議員は1月5日の派遣村院内集会に参加され、またそこで発言をされています。自民党の議員で集会に参加されたのは、厚労副大臣で派遣村に年始の実務対応で関わった大村議員を除けば片山議員だけであり、この点、大いに注目されます。また昨日(1/13)は、自民党本部で「セーフティネット政策勉強会」の
設立会合を開かれたということで、おそらく発起人のお立場なのでしょうが、この点も目を惹くところです。2次補正の委員会採決と衆院本会議議決、渡辺議員の離党等慌しい国会情勢の中で40名の議員会合を成功させた点は立派で、また、その会合に湯浅誠氏が出席したというだけで、派遣村問題に関心を寄せる国民にとっては注目すべき政治の動きです。新聞は価値の高いニュースとして紙面に記事を載せるべきでした。
そこで、片山議員に2点ほどお尋ねをいたします。議員は1月5日の派遣村院内集会において、「人を大事にする資本主義を再構築する必要があると感じている」と
発言されています。この点を詳しくお伺いしたいのですが、「人を大事にする資本主義」とは具体的にどのようなイメージなのでしょう。また、現在の日本が「人を大事にしていない資本主義」であるとすれば、それはどういう意味で、なぜそのような資本主義になったのでしょう。われわれの一般認識において、「人を大事にしない資本主義」とは、まさに新自由主義のモデルとシステムであり、「自己責任」や「規制緩和」や「小さな政府」の言説と政策で構築された眼前の資本主義社会であり、企業を株主の持ち物だとする社会のことを言います。「人を大事にしない」新自由主義は、嘗てはこの国のモデルでもシステムでもありませんでした。バブル崩壊以降、グローバルスタンダードとしてそれが広まり、特に小泉竹中の構造改革路線として明確に定置され推進されてきたのであり、その点は衆目の一致するところでしょう。
片山議員は、2005年の衆議院選挙に立候補されて当選された、いわゆる
刺客候補でした。選挙は郵政民営化の是非を問う選挙とされ、小泉自民党は国民に「改革」を止めるか続行するかの選択をつきつけ、
マスコミに支持された「改革」路線が圧倒的な票を集めて大勝した選挙でした。自民党の議席は300を超え、与党は衆院の3分の2を制する勢力になりました。あの選挙の主役は、「改革」の指導者の小泉元首相であり、「改革」の参謀の竹中平蔵氏であり、「改革」の旗を掲げて郵政民営化反対派の選挙区に送り込まれた刺客候補たちでした。片山議員の選挙のキャッチフレーズは「改革ひとすじ」であり、街宣でも「私の得票は小泉改革路線への支持率」と訴えています。以来、片山議員は小泉チルドレンと呼ばれた面々の代表格であり、名実ともに改革派議員として国会活動を続けて来られてきました。改革とは構造改革、すなわち新自由主義の政策の推進です。社会保障費の2200億円削減も、後期高齢者医療制度も、聖域なき構造改革として断行され正当化されました。製造業への派遣解禁も、労働法制の規制緩和という構造改革の一貫として04年に法改正(改悪)されたものです。
改革派議員、すなわち新自由主義系議員の筆頭格と看做され、それを看板にして活動していたはずの片山議員が、今日、それを否定する政治路線に身を乗り出しているように見えるのは、おそらく私だけではないでしょう。われわれにとって、片山議員の変節と転向は歓迎すべきことです。けれども、政治家であるならば、立場と思想を転換する場合は、それについての明解な説明が必要でしょう。3年前、片山議員がそれを「改革」と呼び、日本政治の目指すべき正しい方向だったものが、今日、「人を大事にしない資本主義」になったのは何故なのでしょうか。「
改革」とは一体何だったのでしょうか。金子勝氏が何度も言っているように、政府が政策を転換するためには、従来の小泉竹中の構造改革路線が誤りだったと明確に認める必要があります。それはやはり、中谷厳氏のように、これまで構造改革の旗を振り、国の法律と制度を新自由主義のシステムに変えて行った当事者たちが、反省をこめて言うべきことであり、そのときに初めて、日本は「人を大事にする資本主義の再構築」へと踏み出すことができるのでしょう。政策の方向を転換するときは、過去の路線に対する総括と決別が必要です。
あらためて、片山議員にとって「
改革」とは何だったのでしょう。今回、「セーフティネット政策勉強会」に集まった中堅若手の顔ぶれを見ると、ほぼ例外なく、改革派議員であり、小泉構造改革の路線に賛同し、その政策の遂行のために身を賭けて政治家になり、議員活動を続けてきた人々です。「規制緩和」を進め、日本の経済や行政の法制度をグローバルスタンダードに準拠させ改造してきた実行者です。この人たちで「人を大事にする資本主義の再構築」をやるのでしょうか。であるとすれば、繰り返しになりますが、人を大事にする資本主義とは何であり、人を大事にしない資本主義とは何であり、小泉竹中の構造改革路線は日本をどう変えてきたのかを、勉強会の最初に真剣に考え直していただきたく、「改革」の見直しという政治家の最低限のけじめを手続きしていただきたいと思います。自民党と民主党が次の選挙の争点をどう設定しようが、それをマスコミがどう演出しようが、有権者は必ず選挙で構造改革の問い直しをするでしょう。今日の失業や貧困が何によって招来されたのか、国民は真実に感づき始めています。選挙対策のための「セーフティネット」の看板なら、国民は簡単にそれを見破るに違いありません。
もう一点、具体論をお訊きします。片山議員は問題になっている製造業への派遣禁止について、賛成でしょうか、それとも反対のお立場でしょうか。おそらく13日の「セーフティネット政策勉強会」に呼ばれた湯浅誠氏からも、単に生活保護や雇用保険や健康保険の制度的な問題だけでなく、労働者派遣法の抜本改正の必要が訴えられたことと思います。派遣村の活動があり、わずか500名の路上生活者の面倒を見るだけで、官邸と厚労省は大きな騒ぎになりました。今後、年度末に向けて10万人を超えるとも言われる派遣切りの嵐が襲来する可能性を考えると、政府の内部は対応に苦慮するところでしょう。派遣村のボランティアは、年末年始の休暇があったからこそ集まったわけで、その条件のない時期に街に大量の路上生活者が溢れる事態になると、現状の労働局や福祉事務所の工数では対応をカバーできない状態になる恐れがあります。ここは、官房長官が言うように、企業に内部留保を使わせて労働者の雇用を守るしかなく、大企業の派遣切りを抑止する政府の措置が必要です。現在、経団連と政府と自民党と民主党右派の議論では、製造業派遣禁止を急げば、却って企業による大量派遣切りを招くとして、製造業派遣禁止慎重論が勢いを持っています。
しかし、果たして、小手先の住居確保や再就職斡旋の責任義務づけの措置程度で、路上生活者の群れの出現を阻止することができるでしょうか。群れが出た場合は、NPOがボランティアで面倒を見るか、政府が予算と人手を出して面倒を見るか、そのどちらかしかありません。早急に労働者派遣法を2004年以前の段階に戻し、製造業を正社員の常用雇用制に変え、厚生年金と健康保険と雇用保険のセーフティネットを製造業の全従業員に保障提供するべきで、その財源は企業の内部留保(財務省の
データでは240兆円)で賄うべきです。終身雇用、退職金、社宅、結婚相手の世話と、社会保障を国だけでなく企業が面倒を見てきた日本型システムに回帰するべきで、それこそ自民党の本来の政治路線なのではないでしょうか。それをすると国際競争力が落ちるとか、人件費がかさんで企業が海外に転出するという議論がありますが、5年前、製造業派遣が解禁される前も日本企業は十分な国際競争力があり、国内に生産工場を持って経営をしていました。日本企業の競争力は、勤勉な労働者と下請け企業の努力が基盤になっていて、そのおかげで培われ支えられているものです。内部留保は労働者と下請け企業の血と汗であり、彼らの手元に戻ることこそ本来のあり方に他なりません。
それが崩されてしまったから、新自由主義の労働法制と資本法制によって、無用に内部留保を膨らませ、株主配当を増大させる経営になってしまったから、労働者の所得が減り、下請け企業の利益が減り、地域経済の消費と投資が冷え、内需が枯れ萎み、税収が減り、財政が赤字になり、国民の負担が重く過酷になって行ったのです。まさに単に派遣切りだけでなく、この間の日本経済の萎縮や税収減や負担増そのものが、トータルに、新自由主義による政策の失敗を原因とするものであり、政治災害と呼べるものでしょう。あまりに大企業の経営や投資家だけに配慮した政策が進行しすぎました。議員と「セーフティネット政策勉強会」の皆様には、是非ともこの点を認識の基点に据えていただいて、自民党内で製造業派遣禁止の動きを起こしていただきたいと思います。設立会合に湯浅誠氏を招待されたのは画期的です。次回以降、どうか、これまで反新自由主義の立場で経済政策を論議してきた方々、金子勝氏や内橋克人氏を講師として呼び、その提案に耳を傾けていただきたいと思います。新自由主義の時代は終わりました。金融危機以降、新自由主義の路線で景気を維持拡大できる条件はなく、内需を拡大するしかありません。
片山議員が自民党の政策を転換し、党を代表する社会政策の指導者となることを願っています。 敬具 (1/14 トラックバック済み)