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本と映画と政治の批評
by thessalonike5


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製造業派遣禁止に関する2紙の記事 - 朝日の反動、毎日の限界
製造業派遣禁止に関する2紙の記事 - 朝日の反動、毎日の限界_b0090336_11511476.jpg1/4の深夜、埼玉県蓮田で、52歳の男性が宇都宮線の踏切から線路に入り、下り電車にはねられて死ぬ事故が起きている。報道によると、この男性は昨年5月に経営していた居酒屋を廃業、派遣社員として仕出し弁当の調理をしていた。「高校1年と中学1年の2人の息子と暮らしていた」とある。記事から察すると、一家は3人暮らしで、父親が2人の子供を育てていた様子が伺われる。残された2人の子供はどれほど辛い思いだろう。間もなく新学期、誰がこれから2人の面倒を見るのだろう。一昨年のNHKの『ワーキングプア』に、中学生の息子2人を一人で育てている父親が出ていたのを思い出す。千葉のガソリンスタンドで夜勤をやっていた。昨年5月の『セーフティネット・クライシス』でも、高校生と中学生の2人の子供を抱え、病気で苦しんでいるのに生活保護を打ち切られる母親の姿があった。昨年は、年明けから様々な事件が起きた。年を越した後に絶望が深まり、人の心を押し潰して狂わせる。その心理は何となくわかるような気がする。



製造業派遣禁止に関する2紙の記事 - 朝日の反動、毎日の限界_b0090336_1159413.jpg1/4の午後、日比谷の派遣村では集会が行われ、民主党の菅直人、共産党の志位和夫、社民党の福島瑞穂、国民新党の亀井久興が壇上に顔を揃え、新党大地の鈴木宗男の提案で「雇用対策の強化と派遣労働者への住宅確保を求める決議案」を国会に提出することを決めた。野党の党首クラスが、これほど大勢で集合する機会は滅多になく、日本の政治の大きなニュースのはずなのだが、1/5の朝日新聞には写真はおろか事実を伝える1行の記事もなく、1/4と1/5のテレビの報道番組でも何の映像も紹介されなかった。報道がないので、決議案が1/5の国会に提出されたのかどうかも定かでない。この集会と決議案は、新聞の政治部にとっては政治の範疇ではなく、自分たちが記事を書く問題ではないのであり、社会部にとっても記事を書くのは政治部の領域を侵食する脱権行為であり、社会部は社会部らしく、炊き出しに並んだり厚労省の講堂に入る労働者の姿を映したり書いたりしていればいいのである。社会問題を扱うのが社会部の記者の仕事なのだから、野党の党首の話は要らないのだ。

製造業派遣禁止に関する2紙の記事 - 朝日の反動、毎日の限界_b0090336_11512881.jpg新聞にとって、派遣村問題は政治問題ではなく、単なる貧困者たちの社会問題なのである。だが、流石に世論の大きなうねりを無視できなくなったのか、昨日、舛添要一が「製造業への派遣見直し」を口にし、それを報道ステーションで一色清が支持するという一幕があった。早速、その流れを受けて、本日1/6の朝日の1面は「製造業派遣見直し焦点」の見出しの記事がトップになっている。これは、官僚側(財務省と厚労省)がこの方向に少し傾いて、自民党と経団連に牽制球を投げている政治と見ることができる。これからさらに大量の派遣切りが横行すると、厚労省が世話する手間が大変で、予算措置の手当ても馬鹿にならない。「派遣切りは自制しろよ」という官僚の意向を、朝日新聞がメッセンジャーになって経営者に発しているのであり、そしてまた、製造業派遣原則禁止を求める民主党の立場を国民に宣伝しているのである。が、朝日の1面記事には、自民党と財界の主張する製造業派遣の正当化論理をそのまま客観的な説明として紹介している部分があり、朝日の論説自身は製造業への派遣禁止に前向きでないスタンスがよく分かる。

製造業派遣禁止に関する2紙の記事 - 朝日の反動、毎日の限界_b0090336_11514014.jpg記事にはこのように書いている。「首相らの慎重姿勢の背景には、派遣規制を強化すれば直接雇用を求められる企業が採用を手控え、かえって失業者の増加につながりかねないことや、日本の製造業の国際競争力が低下することなどへの懸念があるとみられる」。これは麻生首相と河村官房長官の製造業派遣に対する考え方を客観的に述べた件だが、この事実認識に対して朝日の記者からの反論や評価が何も与えられていない。すなわち、麻生首相が製造業派遣に否定的な理由の中身については、その客観的合理性を記者自身が認めている内容になっているのである。朝日の記事の論旨と結論では、製造業への派遣労働を禁止は、企業の国際競争力低下をもたらし、正規雇用に悪影響を及ぼす政策なのであり、慎重な判断を要すべき問題なのである。われわれは、製造業への派遣禁止が、日本企業の国際競争力低下や正規雇用の悪影響に繋がらない事実を知っているし、これが単なる企業の側の根拠のない脅し文句で、国民を説得するための虚偽と欺瞞の言説である事実を了解している。だが、朝日新聞記者にとっては、この言説は合理的で妥当なもののようである。

製造業派遣禁止に関する2紙の記事 - 朝日の反動、毎日の限界_b0090336_1152138.jpg一方、毎日新聞は1/6の社説で「年越し派遣村:今度こそ政治の出番だ」と派遣村問題を取り上げ、その中で、「抜本的な雇用・住宅対策を講じるのは、政治の役目だ。何よりも、企業による非正規切りの横行を許さない制度づくりが急務だ。舛添要一厚労相は『個人的には』と断りながら、派遣を製造業にまで解禁した現行制度に疑問を呈し、見直しの検討に言及した。言葉だけでなく、実行に移してもらいたい」と言っている。ストレートに製造業派遣禁止に対して前向きな主張であり、経営側と自民党の言い分に耳を傾けて頷く朝日新聞と好対照に映る。毎日の社説が、少なくとも現在の日本の世論の多数を示すところであり、ここに至っても新自由主義に捉われている朝日の反動性がくっきりと浮び上がる。だが、毎日新聞の社説にも、派遣村問題の論説として限界を感じるところがある。この内容は、昨夜の報道ステーションの一色清の議論と全く同じものだ。結論と立場は問題ないのだが、論理が貧弱で、率直に言えば、床屋政談的で常識論的な主張の薄さが印象的なのである。この論説の最大の問題点は、なぜ派遣村の人々を行政が救済する責務と必要があるのか、政治の役目なのか、その根拠が明確に示されてない点に尽きる。

製造業派遣禁止に関する2紙の記事 - 朝日の反動、毎日の限界_b0090336_11521282.jpg派遣村の被災民が気の毒だから、NPOがやる前に行政がやるのが当然だから、という一般的主張に止まっている。行政や政治の責務や必要はどこから来るのか、何が根拠なのかという法的問題に触れていない。要するに、私が言いたいのは、それが憲法25条に規定された国の義務であり、国民の権利であるからという、そういう論点が入らないといけないということだ。法的論理で根拠を導出しないと、その「行政の責務や必要」が単に倫理的な根拠のレベルに止まり、根拠として曖昧になるからである。現に、麻生首相や河村長官は、派遣村の被災民救済について(言葉には出してないが)その行政の出動の責務や必要を認めていない。また、総務政務官の坂本哲志は、麻生首相の真意と胸中を代弁するかのように、「本当にまじめに働こうとしているのか」と派遣村の人々に暴言を放ち、ネット右翼やみのもんたの喝采を浴びている。派遣村という社会的現実に対して、行政や政治がどう対応しなければならないかという基準は、一般的な倫理や道徳から導かれるものではないのである。そこにはきちんと国の基本法というものがある。憲法がある。このような問題についての対応を行政に指示するものこそ国家の基本法である。憲法は行政を拘束している。根拠は法的に与えられている。その視点が毎日の社説には抜け落ちている。

製造業派遣禁止に関する2紙の記事 - 朝日の反動、毎日の限界_b0090336_11522465.jpg

by thessalonike5 | 2009-01-06 23:30 | 派遣村
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