人気ブログランキング | 話題のタグを見る

本と映画と政治の批評
by thessalonike5


S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
access countベキコ
since 2004.9.1


















派遣切りの急襲と蔓延 - 情報集積と運動支援のサイトの構築を
派遣切りの急襲と蔓延 - 情報集積と運動支援のサイトの構築を_b0090336_12165723.jpgこの年末になって、毎日のように派遣切りのニュースが続いている。昨日(12/10)は大分キャノン工場の問題が取り上げられ、解雇された請負労働者が寮の一時提供を求める申入書を職員に手渡す場面が放送されていた。一昨日(12/9)は上尾の日産ディーゼルが大きなニュースとなり、労組を結成した3人の派遣労働者が工場の前で抗議のビラを撒いている様子が映されていた。その場所には派遣ユニオン書記長の関根秀一郎の姿もあった。先週は、いすず自動車の問題が注目を浴び、栃木工場で期間従業員4人が労組を結成したニュースが伝えられていた。これまで、トヨタの3千人を始めとして自動車12社で1万1千人以上が削減され、来年3月までに国内で3万人の派遣労働者の首が切られるという説明がされてきたが、恐らく、この厚労省の予測をマスコミが発表していた3万人という数字には、12/9に大規模なリストラ計画を発表したソニーは含まれていなかったはずで、ソニーとソニーに続く企業を含めて、数字は大幅に上方修正されるに違いない。



派遣切りの急襲と蔓延 - 情報集積と運動支援のサイトの構築を_b0090336_12171049.jpgNHKで『ワーキングプアⅢ』が放送されたのは、ちょうど1年前の12/16だった。今年は『ワーキングプアⅣ』の制作と放送はないのだろうか。12/9の夜のニュースの中で、日産ディーゼル上尾を解雇されて労組に参加した25歳の青年の生活と主張が紹介されていて、その映像がとても印象深かった。真面目でかわいい若い日本の男の子なのである。こういう男の子の姿を見ると、思わず胸が詰まって熱くなる。心のやさしい、素直な、顔のきれいな、まるで国の宝のような、とてもいい子なのだ。寮のアパートの狭い部屋で自炊して食事をしていた。思い出したのは、6月に放送されたNHKスペシャル「追跡・秋葉原通り魔事件」の番組で、そこでも彼と同じような若い派遣労働者の男の子が出てきた。眼がとてもきれいで、澄みきった視線で感情を抑制して、淡々と工場の同僚だった加藤智大のことを語っていた。日本の若い男の子と言うと、まず最初に太田光のようなイメージが想起されて、すぐに感情を荒げて刺々しく毒々しい言葉を吐き出し、目をギラギラさせて、自分の衝動や欲求を抑制することができず、相手が傷つこうが構わず平気で強引にわがままを押し通す人間像が思い浮かぶ。教育と訓練が欠如した未熟で幼稚な人格が想像される。

派遣切りの急襲と蔓延 - 情報集積と運動支援のサイトの構築を_b0090336_12172326.jpgだが、そうした表象とは全く別の、ひたすら心の優しい、自己主張をしない、控えめで穏やかな、欲望や衝動のエネルギーの小さな、そういう若い男の子の姿が現代日本には確かにある。80年代の若者像からさらに進化した、男性と女性の中間のような、これ以上おとなしくなったらどうなるのだろうかと思ってしまうほど、繊細さを漂わせるエゴの小さな日本の青年の実像がある。そういう青年が、特に『ワーキングプア』とか派遣労働者の問題で報道される世界に多く生息している。今、東京を歩いても若い人間が少ない。一昔前と較べて、驚くほど若者が少なく、道行く人は高齢者が溢れている。そして、無闇に外国人が多く、特に中国人の姿が目につく。例えば、老人ばかりが多いなと思いながら上野のコンビニ店に入ると、レジに若い人がいて元気に仕事しているのでホッとすると、胸の名札に「陳」とか「周」とかと書いていて(正直なところ)ギョッとする。山の手線の北半分のエリアは、ひょっとしたら日本人の若者より中国人の若者の方が数が多いのではないか。場末の街を歩いているのも(黒や白の)外国人の若い男と日本人の若い金髪の女だったりで、日本人の普通の若い男の子はどこにいるのだろうという不安を覚え、報道番組で出る派遣労働者の男の子を見て、ああ、ここにいたのだという安堵の思いを持ったりする。

派遣切りの急襲と蔓延 - 情報集積と運動支援のサイトの構築を_b0090336_12174944.jpg世代の人口数が少なくなり、今後の日本経済を支える労働力として貴重な貴重な日本の若い男の子が、今、現場でこういう悲惨な目に遭わされている。日本人は一体何をしているのだろう。3か月前に金融危機が起きたとき、日本は欧米諸国よりも影響は少なく、経済の被害も小さいのだと政府やマスコミは言っていた。米国では投資銀行は潰れたが、黒字経営の大きな製造業で大規模なリストラがあったという話は聞かない。赤字経営で倒産間際の大手自動車メーカーが、失業者を出すのを防ぐために政府から救済を受けている。新自由主義の本家であるはずの米国で、政府が労働者の雇用を守るために、潰れかかりの企業に税金を投入しているのに、日本では黒字経営の企業が労働者の大量解雇を競い合っている。その日本の政府は、金融危機から世界を守るためと言い、10兆円の大金を国庫から拠出した。金融危機の影響が最も小さいはずの日本で、最も大量で冷酷な労働者の首切りが行われ、その流血の規模が世界を驚かせている。金融危機の実体経済への影響は、蓋を開けてみれば、何と、世界中で日本が最も大きかった。10兆円の財政資金を国庫に積み上げたのは、日本の労働者の血と汗である。けれども、そのカネはIMF(米国)の金庫に入り、基軸通貨ドルを守るために使われ、日本の労働者の救済には回されない。日本はミステリアス。

派遣切りの急襲と蔓延 - 情報集積と運動支援のサイトの構築を_b0090336_12173629.jpgその実相を最もよく捉えたのは韓国のテレビ局で、トヨタを取材したMBCの崔炳崙はこう言った。「大幅減益と言っても、まだ赤字でもないのに、 なぜトヨタは雇用を減らすのか」「このような人員整理をされたら韓国では労働者は怒って行動するが、日本では派遣社員も期間従業員も経営者側に理解を示しているのが不思議だ」。トヨタに殺到した世界のメディアは、今度はソニーに殺到するだろう。11月から始まっている一連の派遣切りの問題で、労働者の救済と支援のために精力的に動いているのは共産党で、そしてマスコミの中では、NHKの7時のニュースが積極的に取材と報道を続けている。ただ、中立の立場で報道するNHKのニュースは逆の効果もあり、次々と違法な派遣切りをする企業の動きに影響され、それが経営判断の「常識」のような錯覚を社会に与えて、さらに次のリストラを誘発する結果に導く心配もある。企業をスポンサーにしている民放はやはり冷淡で、「経営者も苦しいのだから仕方がない」とか「業績が悪化すれば人員削減は当然」という論調で終始している。「黒字を出しながら人員削減する日本企業は世界的に異常だ」とは言わない。連合の支援で選挙をしているはずの民主党は動きが悪く、労働者の救済のために動いている様子は全く見えない。鳩山由紀夫の顔はテレビによく出るが、政局話で麻生首相を皮肉っているだけだ。

派遣切りの急襲と蔓延 - 情報集積と運動支援のサイトの構築を_b0090336_1218247.jpg何故、日本は韓国のように労働者市民が怒って抗議行動を起こさないのだろう。ネットを使わないのだろう。提案をするわけではないが、誰かがネットの中に本格的なサイトを設え、そこに「派遣切り」や「内定取消」に関する報道機関の情報を集中させ、また労働者側からの抵抗の動きを発信し、一般市民からの支援が届くようにすればよいと思うけれど、そういう綜合サイトが立ち上がらない。今は、ただマスコミが労使の情報を流し、政治家がそれに反応し、一般市民はテレビを見ているだけだ。ネットでは、民主支持が多い左側のBLOGは、単にマスコミ報道をBLOG記事のネタにしているだけで、自民支持の右側は、掲示板とBLOGでもっと首切りをせよと経営側を激励し、自己責任だから政府は何も支援するなと言っている。あとは共産党支持のBLOGが赤旗新聞の記事をコピペして、選挙を前に共産党の宣伝に勤しんでいるだけ。赤旗新聞の記事には確かに多くの関連情報があるが、所詮は政党機関紙の掲載情報であり、政党独自の目的と方針に従って編集発信されている。必要なのは、各地で起きている問題を一か所に纏めた綜合的な情報サイトで、そこでは、いすず栃木・藤沢のその後とか、日産ディーゼル上尾のその後とか、大分キャノンのその後とか、日本総合地所のその後とか、労使と行政をめぐる日々の情報がサブセットに構造化されてフォローされアップデイトされなければならない。そして、そういう目的と性格から考えれば、インターネットは機能的に最もベストな情報ツールなはずである。

派遣切りの急襲と蔓延 - 情報集積と運動支援のサイトの構築を_b0090336_12181877.jpg各地区で起こった動きに国民の目が届くようにして、苦境にあって頑張っている労働者に支援の声が届くようなサイトがあればいい。おそらく、韓国だったら、誰かがそういうサイトを既に設計し構築して、情報提供と運動支援の拠点にしているはずなのだ。日本人の中でその動きが出ないのは何故なのだろう。関根秀一郎だけに任せるのではなく、誰かがボランティアで任務を引き受けなくてはいけない。この場合、そのサイトはBLOGベースではなく、基本となるものはHTMLで本格的に立ち上げる必要があるだろう。完成度の高いものができれば、アクセスは軽く1日1万件を超え、世間の注目を集めるだろうし、さらに大きな成功を収めれば、日本の労働運動の歴史に画期的な金字塔を打ち立てる偉業ともなり得る。それをデザインして実行する人間に出てきて欲しいが、そういう意思や能力を持った人間はいるだろうか。韓国と較べた場合、日本は市民の民主主義のレベルで確かに劣っていて、権利を実現するための行動に出ることができない。特にネットを民主主義の政治に応用するという点で、日本は韓国と米国のはるか後塵を拝している。日本の場合、そこにいるのは、軽薄で狂信的な小沢信者の民主支持者か、そうでなければ赤旗コピペの共産支持者で、政党から独立した人間がいない。そして多くの場合、政治的な意見なるものは、単に麻生批判の政局ネタをBLOGで転がしているだけで、古館伊知郎やみのもんたが言っている同じ中身を記事で繰り返しているだけだ。稀に独自な意見があると、不気味な新興宗教まがいの陰謀論だったりする。

世を蓋う「派遣切り」の深刻な状況にも暗澹とした気分になるが、本当に絶望的なのは、単にそれを傍観するか、マスコミ情報をネタとして後追いするだけで、対抗する政治運動をネットの中に作っていけない日本人の現実だと私は思う。

派遣切りの急襲と蔓延 - 情報集積と運動支援のサイトの構築を_b0090336_12183381.jpg

by thessalonike5 | 2008-12-11 23:30 | 新自由主義と反貧困
<< 日本版ニューディール構想(1... 昔のIndexに戻る 四面楚歌の麻生政権 - 予算は... >>