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本と映画と政治の批評
by thessalonike5


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アダルトなG20サミット - 10兆円は戻らず、危機は実体経済へ
アダルトなG20サミット -  10兆円は戻らず、危機は実体経済へ_b0090336_21323116.jpgG20サミットの結果をどう評価するかは立場によって異なるが、私の見方としては、旧体制(アンシャンレジーム)の側の緒戦勝利という表現になる。日本による10兆円の拠出が大きい。事前に報道されたような、規制をめぐる米欧間の対立が会議で火花を散らした形跡はなく、また新興国の側からのIMF改革の要求の声も小さかった。1週間前の準備会合では米国とIMFを厳しく批判していたブラジルが本番では控えめで、動向が注目されたロシアからも特に何も聞こえて来なかった。全体としてブッシュ政権の最後に花を持たせたような玉虫色の首脳宣言に終わり、ステートメントを調整できる議長国の権限の大きさが印象づけられた格好になる。ブラウンやサルコジが言っていたような「新ブレトンウッズ」とは程遠い、内容のない「お祭りイベント」の首脳会議になった事実は否めない。米国の態度が強気に変わり、サルコジが求めた規制の合意を一蹴した。キャンプデービッドでは顔面蒼白で、サルコジに押されてG20サミットを渋々承諾したブッシュが、ここに来て強気に変わったのには理由がある。



アダルトなG20サミット -  10兆円は戻らず、危機は実体経済へ_b0090336_1071894.jpg各国の公的資金注入で株価の下落が一段落し、短期金融市場の麻痺が徐々に解消されている背景に加えて、何より日本からの10兆円の現金がIMF(米国)の金庫に入った事実である。ブッシュがNYで「金融規制に反対」の講演を行ったのは、サミット2日前の11/13だったが、金融危機が発生した9/15以降、ブッシュの口からこれほど強気の自己正当化の言葉が出るのは初めてだった。日本の10兆円拠出が効いているのである。具体的に言おう。ワシントンで首脳会合の本番が開かれる1時間前、日本時間の15日22時40分に、IMFからパキスタンに76億ドル(7400億円)の緊急融資が出ることが決まり、その合意をパキスタン政府が発表して新聞記事になった。記事にあるように、デフォルト寸前のパキスタンは、各国に支援を要請しながら協力を得られず、IMFとの長い協議に入っていた。このパキスタンへの76億ドルは日本の10兆円の一部である。さらに、IMFが15日の会見でアイスランド向けの融資を承認した事実が、日本時間の16日12時35分に報道された。このアイスランド向け融資は総額で60億ドル(5700億円)。

アダルトなG20サミット -  10兆円は戻らず、危機は実体経済へ_b0090336_1074026.jpgIMFからのアイスランドへの緊急融資は、10/24の段階で20億ドルで合意していたが、その後、IMF理事会で承認されず、協議が難航し、11/12にも承認延期が報じられていた。IMF理事会で承認されなかったのは、20億ドルの融資がアイスランド経済にとって返済不能だと分かっていたからで、IMF(米国)の金庫に余裕がなかったからである。日本が10兆円気前よく出すと言うので、IMF理事会は大喜びで、先送りしていたアイスランド向け融資を決定した。日本国内の報道では、10兆円は融資であり、後で返ってくるカネだから、IMFへの拠出には問題ないという説明がされている。本当にそうか。アイスランドの大統領は、11/13の共同通信との会見で、カウプシング銀行が日本で発行した円建てサムライ債(総額780億円)について「償還は容易ではない」と発言、事実上のギブアップ宣言を行っている。アイスランドの借金は20兆円。アイスランドの国家予算は2800億円。国家予算が2800億円しかなく、人口が32万人しかいない小国に、5700億円の資金をポンと融資して、果たしてその融資はいつ返済されるのか。国家予算の2倍というのは、日本に置き直せば、一般会計で160兆円に相当する。

アダルトなG20サミット -  10兆円は戻らず、危機は実体経済へ_b0090336_1075556.jpg人口30万人と言えば、青森市や福島市や下関市の規模になる。青森市が20兆円の借金を拵えて、そこへ5700億円の融資を突っ込めば、結果は一体どうなるか。97年のタイや韓国なら、1兆円入れても、2兆円入れても、十分に返済の見込みは勘定できた。アイスランドはタイや韓国とは訳が違う。人口と経済の規模が違う。経済というのは、一見分かりにくいようで、実際には非常に分かりやすい世界である。日本が10兆円を出すと言った途端、難航していたパキスタンとアイスランドへのIMF融資が決定した。日本の外国為替特会のカネは、本物の現金であり、ワークするカネであり、信用できるカネなのだ。そしてIMFへの拠出については無条件であり、使途はIMF理事会(=米国政府)のフリーハンドなのである。アイスランドへの融資は間違いなく焦げつく。返済の見込みは来世紀の話になる。日本からIMFに入り、IMFからアイスランドに入る5700億円は、国有化されたアイスランドの銀行で凍結されている英国の企業や投資家の預金の救済に当てられるだろう。欧州の金融機関への借金の弁済に使われるだろう。日本人の税金で、アイスランドの銀行を助けてやるのであり、英国人の口座にカネを入れてやるのである。無償で。

アダルトなG20サミット -  10兆円は戻らず、危機は実体経済へ_b0090336_1065782.jpg外国為替資金特別会計は、例の埋蔵金の中の最も大きな「隠し蔵」で、今年の夏、総選挙目前の政策論争の中で、菅直人が財務省を立入調査して見つけたものだった。民主党はこれを総選挙の争点にするつもりで、総選挙が先送りされても、来年度予算の国会審議で俎上に乗せられる可能性が少なくなかった。麻生首相と財務省は、そこにメスが入れられ、外国為替特会の余剰金が一般会計の社会保障費に振り向けられる前に、これを処分すべく、先手を打ってIMF(米国)に10兆円を放り渡したのである。日本らしい「不都合な史実」の生産。吉川元忠の『マネー敗戦』を読むまでもなく、日本の金融や財政は、米国に奉仕し、ドルのマネー経済を支えるために生きている。そういう非合理な自己目的を持っている。日本は米国の植民地なのであり、日本経済は植民地経済としての再生産構造のメカニズムの下で動いている。日本の政治権力者は、米国の植民地支配の現地下僚であり、日本の政府は米国の日本統治機関である。この財政危機の中で、深刻な不況と国民の生活苦の中で、10兆円という金額は途方もなく大きい。野党はこの10兆円拠出を国会で取り上げて政府を追及すべきだ。簡単に国の予算を10兆円も外国に出す決定を認めてはならない。何のための議会なのか。

アダルトなG20サミット -  10兆円は戻らず、危機は実体経済へ_b0090336_1083197.jpg昨日(11/16)の「サンデー・プロジェクト」で、榊原英資とリチャード・クーが出演してG20サミットを論評していた。二人の間での「長期金利論争」は、エコノミクスの醍醐味が感じられて面白く、久しぶりに本格的な経済議論をテレビで見た気分がする。クーは独自の理論と立場を持っていて、結論は常にシンプルな財政出動論だけれども、それを導き出すセオリーのプロセスが独特の説得力で聞く者に迫ってくる。この2人と金子勝、その3人が毎週1時間くらい討論する経済番組をテレビ局が組んでくれれば言うことはないのだが。榊原英資は相変わらず元気で、規制が具体的に決まらなかったG20サミットを不満いっぱいに批判、特にヘッジファンドに対する規制こそが重要なのだと言っていた。97年にアジア通貨危機が起きたとき、カウンターパートのサマーズに対して、ヘッジファンドを規制しろ、規制できないならせめて透明化しろと迫ったが、サマーズからは拒否の返事が返ってきたと10年前の裏話を披露していた。重要な話だ。そう言えば、あの頃、クーはまだマスコミ世界で健在で、報道番組の解説席によく座っていた。小泉内閣が発足し、新自由主義路線で政官財とマスコミが固まり、竹中平蔵の息のかかった評論家以外はテレビから追放され、クーの姿も長い間テレビから消えていた。結論の当否は別にして、クーの経済分析と政策提言は聞く価値がある。何より米国盲従でない点が評価できる。

アダルトなG20サミット -  10兆円は戻らず、危機は実体経済へ_b0090336_10944.jpgTBSの「サンデーモーニング」では、寺島実郎が、数か月以内に米国の自動車産業で大きな出来事が起きるという話をしていた。次の焦点が米国の自動車産業、特にGMの経営問題であることは、世界中の人間がすでに薄々感づいている。金融危機は、今では実体経済の方に影響と関心が移り、次の危機は実体経済側のクラッシュを引き金に起こるのではないかと誰もが予想を立てている。金融危機から恐慌への移行である。だから、規制の問題も、その意味では現在は焦眉の課題ではないのだ。規制はやらなくてはいけないが、今は規制をしなくても、金融資本は収縮に次ぐ収縮の段階で、規制を急いだから金融危機に歯止めがかかるという問題解決には繋がらない。恐慌を回避するという目的からの緊急課題は財政出動であり、特に米国政府によるGMとBIG3の救済の如何である。このままではGMの倒産は必至で、全米の自動車産業250万人の雇用が失われると言われている。どうやら、ブッシュは、このクラッシュをオバマ政権誕生時にぶち当てる魂胆で、だからわざと問題を放置したまま黙っている。ブッシュはGMを潰す気だ。12月から1月にかけて、米国の自動車産業に注目が集まり、破綻すれば、そこから1か月ほど株安が続き、また金融機関が潰れ、米欧で公的資金の注入枠拡大という事態になるだろう。悪性のスパイラルは続き、世界恐慌の状況が明らかになりながら、小康状態と破綻悪化を繰り返す。日本の経験と同じ道を辿る。

アダルトなG20サミット -  10兆円は戻らず、危機は実体経済へ_b0090336_1084855.jpg三部会は続く。当面、新興国のデフォルト問題は日本の10兆円で対処ができた。次の危機の局面が来るまで、IMF体制の問題は議論のレベルで続けられ、予定されている中印露伯の財務相会議とスティグリッツの国連作業部会の行方に注目が集まる推移になる。GMの経営破綻、次のNYSEの大幅下落と米国地銀の連鎖倒産、そしてオルトA問題の顕在化と住宅公社2社の破綻、住宅公社債のデフォルト、FRBの経営危機、等々が来年の問題になるだろう。危機の中で三部会は華麗に続く。最後にアダルトな政治学で締めよう。今回のG20サミットの最大の成果だが、どうやら、フェルナンデスとメドベージェフが男と女の友好関係になってしまったようだ。11/14のホワイトハウスの歓迎晩餐会で、フェルナンデスの隣に座ったメドベージェフが、まるで金融危機など眼中にないかのように、熱い視線でフェルナンデスを見つめている。フェルナンデスも最初は当惑したようだが、そこはやはり女。若い男からのプロポーズを受けて悪い気はしない。55歳。大人の熟女の妖艶な魅力で、13歳年下のメドベージェフを虜にしてしまった。次の日の首脳会議後の様子を見るとよく分かる。フェルナンデスはメドベージェフの横にぴったりくっつき、嬉しそうに右手をメドベージェフのに左腕に寄せている。メドベージェフはフェルナンデスから離れようとせず、二人は写真撮影でも仲良く横に並んでいる。フェルナンデスの表情に前夜の迷いはない。次のG20開催の前に、ロシア政府は大統領の南米訪問を発表するだろう。アダルトなG20サミット。実はなくとも華はあった。

政治も恋も、これからの世界の主役は新興国だ。歴史の物語は続く。池田理代子の作品のように。 
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by thessalonike5 | 2008-11-17 23:30 | 世界金融危機
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