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本と映画と政治の批評
by thessalonike5


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WBSの「揺れる資本主義」報道と米国テレビ放送の緊張感の無さ
WBSの「揺れる資本主義」報道と米国テレビ放送の緊張感の無さ_b0090336_1131966.jpg昨夜(11/4)のテレビ東京のWBSは、スタジオをNYに移しての放送だったが、特に序盤の特集部分に見るものがあった。大恐慌からブレトンウッズ、70年代の経済不振からレーガノミックス、そして今回のリーマンショックと米国経済の流れを映像で見せ、新自由主義路線の失敗を結論づけるメッセージになっていた。特集企画のタイトルは「揺らぐ資本主義」であり、米国流資本主義の自壊と終焉を基調にした構成と語りになっていた。特に印象的だったのは、オハイオのGMの労働者へのインタビューで、「米国は国内の製造業に力を入れず、金融市場にばかり力を注いでいたのが間違いだった」という言葉だった。日経新聞が制作しているWBSで、「資本主義」を正面から問う報道が示されたのも異例で、視聴者として衝撃と興奮を覚える。「資本主義」という言葉は、そもそも、それに対して批判的あるいは自己批判的な意味の言語であり、通常、それを肯定する立場は、資本主義とは言わずに自由主義経済と呼び、また市場経済という言い方をする。



WBSの「揺れる資本主義」報道と米国テレビ放送の緊張感の無さ_b0090336_1133332.jpgWBS(日経新聞)が、資本主義という言葉を使って、この世界の経済や体制に対して批判的なアプローチをする図は異例であり、時代がまさに転換期にあり、この危機がどれほど深刻なものかを教えている。資本主義という言葉を使って、この現実と向き合わなければ、有効な説明にならず、意味のある報道にならないのであり、視聴者の心に届くメッセージの発信にならないのだ。資本主義という言葉の裏側には社会主義がある。二つは表裏の関係で、この経済と体制を資本主義という批判言語でネガティブに捉えれば、理念としての社会主義がポジティブに浮上する観念の仕組みになっている。資本主義と呼ばず、自由主義とか市場経済と肯定言語で表現しているときは、社会主義は悪魔と暗黒の歴史であり、貧困と恐怖を象徴するマイナスシンボルである。すなわち、WBSの報道でも、社会主義が原理的に肯定される思想的端緒が見えたということだ。ワシントン広場の噴水の縁に腰をかけて、ブッシュ批判のプラカードを持った若い女の子が、小谷真生子の質問に答えて言っていた。

WBSの「揺れる資本主義」報道と米国テレビ放送の緊張感の無さ_b0090336_11101088.jpg「資本主義はコントロールしないといけない」。あそこにはNY市立大学がある。縁があって構内に入らせてもらった。懐かしい。新自由主義批判が時代の思想的潮流となり、「小さな政府」や「規制緩和」が批判的に見直される局面になった。市場原理を国の政策の基軸に据える時代ではなくなり、「政府がコントロールする資本主義」に人々が活路を見出そうとしている。思えばまさに感無量。この流れは来年にかけてさらに明確に固まり、他ならぬ米国政府がその政策を具体化する役割を担うだろう。下院の公聴会に呼ばれたグリーンスパンに監視改革委のワックスマン議員が尋問した言葉は、「あなたの ideology と belief は正しかったと思うか」だった。日本のニュースでは「世界観」と訳されて字幕になったが、「イデオロギー」である。同じ映像は何度か報道番組で流されたが、WBSの「揺れる資本主義」の特集で挿入されると、一段と意味が重く受け止められる。あの特集映像を制作した人間の頭の中でも、ideology は「世界観」ではなく「イデオロギー」だったのだろう。全ての人間が、大学時代の自分に戻って、資本主義を考え直すときなのだ。

WBSの「揺れる資本主義」報道と米国テレビ放送の緊張感の無さ_b0090336_1134432.jpg昨夜のWBSでも出たが、1時間前のテレ朝の報道ステーションでも、同じように、オハイオ州の投票所の映像が生中継された。オハイオ州にはGMの工場があり、9月以降、多くの労働者が解雇され、また年内の工場閉鎖で職を失おうとしている。オハイオ州の住民の選挙への関心は高く、投票率は前代未聞の80%になる見込みだと言っていた。票はオバマに怒涛のように流れるだろう。オハイオは選挙戦の激戦州で注目州でもある。前回2004年には開票でトラブルが起きた。米国での選挙報道は、そのままリアルタイムに日本で報道されていて、情報は時間差なく筒抜け状態であり、日本にいる人間がABCやCNNの報道に接していないと思うのは間違いだ。日本の記者だけで100人以上が現地に入り、オハイオやフロリダに張り付き、両候補の選対本部に張り付いている。だが、この一週間ほど、ABC NEWS とCNN HEADLINE の録画をずっと見たが、米国の報道の緊張感の無さは一体何なのだろう。最後の最後までお祭り騒ぎであり、画面には、解雇されたGMの労働者の姿など全く出て来ない。CNNのキャスターは常にふざけ半分で、金融危機など他所の国の出来事のようにへらへらと振舞っている。

WBSの「揺れる資本主義」報道と米国テレビ放送の緊張感の無さ_b0090336_1141588.jpgオハイオの労働者の現状と選挙の情勢については、日本人の方が米国人よりもずっと真実を知っているのではないか。そんな感想を持ってしまうほど、日本のテレビの方が真剣で、米国のメディアはお気楽なのである。例のオバマの30分番組についても、単にカネを注いだ宣伝番組で、どれほど制作上の中身が濃くても、政見と政策の内容はすでに衆知のものだから、日本人は誰も注目せず、日本のマスコミも関心を持って取り上げなかった。ところが、ABCとCNNのニュースはその話題ばかりで、オバマと宣伝番組の持ち上げに終始していた。外から冷静に眺めれば、あれは一つのセレモニーで、米国のマスコミが国民にオバマに投票するように誘導するアナウンスであり、オバマ当選の祝祭演出のプレ企画であるに過ぎない。オバマの30分番組をべた誉めするABCニュースの軽薄な解説者の口調が気味悪かったが、要するに、これまで散々ブッシュ政権に尻尾を振ってきた人間が、これから転向してオバマにくっつくのでよろしくと、新しい権力者にすり寄りの挨拶をしているだけなのだ。報道を見るかぎり、米国のマスコミ関係者の頭の中は何も変わっていない。新自由主義信仰のままであり、「強い米国」のままである。WBSや報道ステーションの姿勢とは全く違う。

WBSの「揺れる資本主義」報道と米国テレビ放送の緊張感の無さ_b0090336_1142498.jpg日本人の中で、「どちらが当選するか」に関心を持っている人間など一人もいない。そんな低脳な人間は一人もおらず、この大統領選をお祭りショーとして見ている人間はいないのである。実際のところ、お祭り騒ぎの報道の裏側では、失業者とホームレスが大量に増え、クレジットカードの請求を払えずに破産している人間が大量に発生している。現在の米国は国民生活にとって緊急非常時だ。昨夜のNHKの特集番組でも、滞納したガス料金の340ドルが払えずに、ガスを止められた貧しいノースカロライナの黒人女性の姿が映されていた。そういう悲惨な現実の中で行われている大統領選のはずなのに、米国のテレビ報道からはそれがさっぱり見えて来ず、雰囲気も伝わらず、世界中が注目しているのを何か気分よく威張っているようにさえ感じられる。オバマが政策で言っている中産階級の保護とか復活という問題について、それを自分の問題として考えている報道関係者はいるのだろうか。日本では、年収数億で小泉・安倍シンパの古館伊知郎ですら、視聴者の経済状況と気分に配慮し、世論にすり寄る保身のためにも、新自由主義者から転向する素振りを見せていると言うのに。

WBSの「揺れる資本主義」報道と米国テレビ放送の緊張感の無さ_b0090336_1143485.jpg3年前、郵政選挙の頃、テレビ報道から疎外されること甚だしく、毎日が気分の塞がれる憂鬱な日々だったことを思い出す。今の米国の中産層や労働者たちがそうだろう。テレビ報道と現実との距離感に悩んでいるだろう。それにしても、この恐慌前夜の金融危機の中で、44%の人間が未だにマケインを支持しているという数字にも驚かされる。マケインの演説を聞いて、政見や政策で頷ける点は何一つない。終盤は「配管工のジョー」のワンパターンで、オバマの税制政策への批判のメッセージだけであり、基本的に中傷攻撃で相手のイメージを毀損する戦略だけしかなかった。ペイリンの話を聞くと、「イラク戦争を勝利に導く」などと言って支持を訴えている。クレージーで無意味な幻想であり、その言葉に共鳴する人間が44%もいるという事実が異常だ。米国は、もう戦争のできる国ではないし、戦争を続けられる国でもない。政治が直面するのは不況対策であり貧困対策である。肝心の不況対策や金融危機の克服について、マケインやペイリンは何も言っていないが、何も言わなくても問題にしないマスコミの感覚がどうかしている。ペイリンの奇矯な振る舞いに関心を引っ張るのは、大統領選挙の報道態度としてあまりに不真面目だ。

ペイリンなど、政治を語る資質と資格のないお騒がせ屋の芸能女に過ぎない。アラスカ知事や副大統領候補などに選ばれるのがそもそもの間違いで、日本の東国原英夫と同じ類のお笑い政治家であり、米国に知性とプライドがあるのなら、論外の存在として無視するのが適切な扱いだろう。

WBSの「揺れる資本主義」報道と米国テレビ放送の緊張感の無さ_b0090336_1144573.jpg

by thessalonike5 | 2008-11-05 23:30 | 世界金融危機
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