
現在、欧州が主導して活発に行われている温室効果ガスの排出量取引は、もともと京都議定書の策定段階で米国が強く求めて組み入れられた制度で、「京都メカニズム」と呼ばれ、市場原理によって排出量を削減することを狙いとしたものである。ブッシュ政権の米国が2001年に京都議定書から離脱したため、世界の排出量取引の中心はロンドンの欧州気候取引所となり、EU ETSがイニシアティブ策定の司令部になっている。もし、あのフロリダの「リカウント」の悪夢がなく、ゴアが大統領になっていれば、今ごろは排出量取引市場のセンターも米国に置かれ、取引のルールやシステムも一切を米国が牛耳るところとなり、排出権は証券化されて金融商品となり、住宅バブルと並行してカーボンバブルが発生し、米国金融資本に巨万の富を齎せ、住宅バブルが崩壊してもカーボンバブルによるマネーのスパイラルで米国の好景気を持続させていただろう。米国は金の卵を産む鶏を潰してしまった。頭の悪いブッシュ大統領を米国の国民は責めるべきだ。

オバマの「環境バブル」戦略は、クリントン政権時代の構想を引き継ぐもので、排出権を証券化した金融商品をバラ撒くことと、市場を欧州から米国に奪還することの二つが柱であると推測される。
マネタリズムの手法であり、クリントン政権とそれ以降の米民主党がいかに骨の髄まで新自由主義の「供給の経済学」に染まりきっていた事が察知される。昨日(10/24)、グリーンスパンが議会の公聴会で吊るし上げられていたが、グリーンスパン以上に金融バブルのA級戦犯として指弾されなければならないのはクリントンだろう。「市場のマエストロ」も化けの皮が剥がれて遂に地に墜ちた。あのような新自由主義者を巨匠と崇めて煽てていた米国は一体何だったのか。そのニュースの後に放送された昨夜の報道ステーションの特集では、長野智子のレポートで、クレジットカード破産になった米国の市民が教会の「財産管理クラス」の説教を受けている姿が紹介されていた。これからはクレジットカードは破棄して、収入の8割で生活し、1割を貯金し、1割を教会に寄付するのだそうな。

オバマが「環境債券」を売り出したら、「財産管理クラス」の牧師は何と説教するだろうか。米国人のクレジットカード利用が、翌月払いではなくリボルビング払いが一般的だという説明にも驚かされた。信じられない。クレジットカード破産する米国市民に同情する感覚を持てないのは、単に「
マネー敗戦」による10年間の辛苦呻吟だけでなく、一昨夜に同じ報道ステーションで見たイラク戦争の現状の映像が頭に残っていたからだろう。モスルで撮影されていた子供たちの姿を米国の国民は知っているだろうか。劣化ウラン弾の影響で、足が萎縮して奇妙に折れ曲がり、顔の目鼻の位置が異常になり、頭に水が入った子供たちが何人も何人も映され、とても目を上げて画面を正視することができなかった。母親たちは絶望と貧困の中で障害者となった子供を抱き、なお育てて行かなければならず、そして何故か、その子供たちはそれでも明るく前向きに生きようとする表情をカメラに向けていた。涙が出る。この10年間、米国は何をしたのだ。劣化ウラン弾など使用するべき戦争だったのか。私はイラク戦争でPTSDになった米帰還兵に同情はしない。

イラクに落として子供たちを奇形児にした劣化ウラン弾は、世界中にバラ撒いたサブプライム金融証券であり、そして40年前にベトナムに撒布した枯葉剤と同じだ。テレ朝の報道ステーションが特に顕著だが、金融危機の進行の中で、日本のテレビ報道が徐々に米国離れと米国批判のスタンスを鮮明にしつつある。TBSの水曜特番、NHKスペシャル、報道ステーション。同じ昨日、株価暴落を眺めながら、アジアと欧州の各国指導者が一同に会するASEM首脳会合が北京で開かれた。サルコジ大統領やメルケル首相は、リーマン破綻後の週末で休みを取ったことがないかも知れない。毎週どこかで首脳会合をやっている。百年に一度の世界史の大事件とはそういうものだ。今度の会議は意義が大きい。中国が開催国になったというのも歴史の偶然を感じる。メルケルの表情を見ていると、この会議の重大性がよく伝わってくる。この金融危機をどう打開するかの鍵を握り、能力を持っているのは中国なのである。世界一の外貨準備高を持つ中国こそ、11月15日のG20金融サミットの主役なのだ。そのことを各国の首脳は知っていて、自らの利害と思惑の方向に中国を動かそうと努めている。

金融危機の勃発以降、中国は問題を静観する立場に引き、目立った発言は控えてきた。リーマン・ショックとNY市場大暴落の後に17期3中総があり、そこで経済政策の集中討議があったため、それ以前に何かを打ち出すことは慎重にしていたという事情もある。その沈黙を破って、ASEM開幕の10/24のタイミングで、中国共産党機関紙の人民日報1面にきわめて重大な
論評が掲載された。従来の中国の消極的態度を変え、大きく一歩前に踏み出す内容である。論者は上海の同済大学教授の
石建勲で、米国批判の急先鋒として知られている経済学者である。論評では、「
現在の悲惨な状況に直面して、人々はようやく米国が自国通貨の優位性を利用して世界の富を搾取していたことに気がついた」と断言、「
米ドルは信頼を失いつつある。世界は早急に、国際機関を通して民主的かつ合法的に、米国一国支配の経済構造と米ドルの優位性の上に立脚している現在の国際金融システムを変えなければならない」と提案している。この主張はまさにわれわれの気分と心情をストレートに代弁するもので、「よく言った」と拍手を送りたい直言である。論評の中で石建勲は、今回のASEM会合は新しい国際金融秩序の構築を始めるのに格好の機会となると述べている。

この論評が人民日報の1面に掲載されたということは、
17期3中総の討議が反映された政策方針の表明であり、最高機関である党中央委政治局常任委員会の意思伝達であると考えてよいだろう。長く新自由主義の路線で経済を運営し、日本に追随してドル体制を支えてきた中国だったが、今回、特に世界金融の面では大きく政策を転換する可能性が意思表示されている。「搾取」という表現は、まさにマルクス経済学の文章であることを証明するもので、また「民主的」という一語が経済政策の立論に挿入されている点にも興味を掻き立てられる。中国が左に旋回を始めた。この人民日報論評は、ASEM会合に参加した新興国や途上国の首脳たちを刺激して、11月15日のG20金融サミットでIMF体制再編問題を主要議題に上らせ、新興国の地位と権利を確定させるように各国を動かすことは間違いない。新自由主義者の李明博はどう思っているかは知らないが、韓国も、タイも、マレーシアも、97年の通貨危機とIMF管理下の「改革」強制で煮え湯を飲まされる思いをした。無論、人民日報の論評は、あるいは米国へのブラフであり、通商外交軍事上の交渉を有利に運ぶためのカードの可能性もある。

だが、インドのシン首相の
発言や、ロシアのメドヴェージェフ大統領の
発言は、IMF体制の本格的な機構改革を意図したものであり、この動きに経済大国の中国が乗れば、米国はもはや切り崩しや逃げを打つことは不可能になる。中国は米国の最大の債権国なのだから。その意味で、今度のASEM会合の内容と結果はきわめて重大なものになるだろう。いわゆる「新ブレトンウッズ」、国際通貨体制の再構築には3つのフェーズがある。第一は、空売り規制やヘッジファンド規制や格付け会社規制などマネー暴走を防ぐ国際監視体制の強化であり、第二は、IMFに新興国の関与を明確にさせる体制改編であり、第三は、ドルに替わる新しい国際基軸通貨の制定である。米国や英国は、フェーズ1のレベルで食い止めようと画策し、ロシアやインドなど新興国はフェーズ2のレベルを求めている。サルコジは姑息に立ち回って、英米と新興国の間に入る素振りを見せている。金融危機は、その対策をめぐって大きな国際外交問題となり、争点が浮き彫りになりつつある。これまで国際金融はアンタッチャブルな世界で、IMFの24名の理事もG7だけから選出され、世界経済と人々の生活を左右するものでありながら、政策決定の動機と経緯は不透明きわまるものだった。
ドルを基軸通貨に据えているかぎり、混乱と不幸とは常に途上国や新興国に押しつけられ、米国だけが富を自動的に収奪する仕組みは正されない。新興国がめざすIMFの機構改革はまさに世界経済の民主化である。これは、先進国以外の国々が経済的な力をつけ、発言力を持ち始め、世界経済の運営に参加する権利を求めていることを意味する。フェーズ2の延長線上にはフェーズ3しかない。