NHKスペシャル『世界同時食糧危機(1)』 - 米国の食糧戦略を批判
NHKが経済報道に力を入れ始め、毎週のように見応えのある大型番組が放送されている。10/17の「世界同時食糧危機(1)」も内容の濃い報道の提供だった。番組では、穀物価格の高騰が資金余力のない輸入国に飢餓をもたらしている状況が報告され、中米エルサルバドルの国民が口にする食物の摂取量が2年前の半分に減っている事実が紹介されていた。エルサルバドルでは数年前に農産物の輸入自由化に舵を切り、安い輸入穀物に頼る政策を方針化したため、国内の農家が廃業に追い込まれ、この危機に直面して国内のコメ生産を上げようとしても不可能になっていた。農業省に勤務する公務員ですら食糧を買えず、貧困層では母親の母乳が出ないために乳児が栄養失調になり、前によく見たアフリカと同じ惨状がエルサルバドルを襲っていた。一方で、穀物メジャーと米国農家は空前の繁栄を謳歌し、収入の増加に笑いが止まらない様子が映し出されていた。価格高騰の原因は、新興国の消費量拡大の趨勢に乗じた投機マネーが穀物を金融商品化したことによる。 

番組は、こうした米国によるグローバルな穀物支配が世界を蓋う歴史過程を追いかけ、戦後の米国が国内で余剰生産された穀物を海外市場に売り掃くために、日本を皮切りに世界の国々の人々の食習慣を巧妙に改造し、米国の穀物輸入に頼らざるを得ない貿易構造に組み変える戦略を実行してきた内実を説明した。各国は米国の安い穀物を大量に輸入し、特に米国のトウモロコシを家畜飼料にして食肉を生産、国内の食肉需要の増大に対応してきた。現在、人口13億の中国が米国の戦略の標的とされ、脂肪分の多い牛乳と肉食の消費文化の普及が米国機関の手でエバンジェリズムされている。番組は、食糧危機がまさに金融危機と同質の問題であると定義し、米国が米国のために追求してきた戦略によって世界の食糧事情が支配され、その矛盾が食糧危機として弱者を痛めつけている構図を浮き彫りにしていた。米国の身勝手な戦略の犠牲にさせられた世界中の弱者が、今日明日の食糧を手に入れられない状況に陥っていて、日本も間もなく商店から食料品が消える日が来ることを警告していた。

NHKの報道が、これほど鋭く米国の農業戦略を批判するのは初めてで、日本政府に食糧自給への政策転換を迫る報道で世論を喚起するのも初めてではないか。時代は大きく変わった。中曽根康弘が「輸入品を買いましょう」とパネルを使って国民に訴えていた25年前を思い出す。20年前の牛肉オレンジの自由化は日本農業にとって大きな分水嶺となる政治的事件だったが、当時のNHKは自民党政府の側に立ち、貿易不均衡是正のためには農家が潰れても仕方がないと言わんばかりに大本営報道に徹していた。10/17の放送では、特に牛乳生産の酪農農家と飼料トウモロコシに焦点が当てられて、トウモロコシのコスト高のために農家が次々と廃業に追い込まれている深刻な現状が報じられた。これまで日本の農家は、規模拡大、すなわち飼育頭数を増やして生産を上げることで収益の維持に努めてきたが、飼料高騰でそれが裏目に出て、自営努力では吸収不可能なコスト高に直撃されていた。その中で、飼料トウモロコシを自ら栽培して自給している農家があり、30頭ほどの小規模経営ならギリギリ採算が取れる例も紹介されていた。

日本の農業においては小規模経営を見直すときではないのか。民主党の農家最低所得保証の有効性をあらためて確信する。今から2年前、菅直人がこの政策を発表したときは、私もその「バラマキ」的性格に少し戸惑いを覚えたが、この2年間の経済と世論の動きは、民主党の農家最低所得保証の政策の正当性を際立たせてきたと言える。輸入穀物の高騰と度重なる中国からの有毒輸入食料品事件の発生によって、これこそが国を救う焦眉の課題だと誰もが納得するようになった。3週間前のTBS「ブロードキャスター」の最終回が食をテーマにした特集で、高い年収で優雅に仕事をするノルウェーの沿岸漁業の漁師と、魚が獲れなくなって廃村になった五島福江島の入り江の漁村がコントラストで紹介され、ノルウェーのように国家が農林水産業者に直接に所得保証をすることこそが、国の食を守り、地域の暮らしを守る唯一の方法だとメッセージしていた。あの福留功男がそう言っていた。これまでの「ブロードキャスター」の新自由主義プロパガンダが嘘のような最終回の放送で、そこに呼ばれた新自由主義宣教師の北川正恭が顔を引きつらせていたのが印象的だった。

政府による緊急資本注入は、銀行より先に酪農家と漁師に実施しなければならない。そして、日本の食糧政策を輸入から自給へと根本的に転換する必要がある。これまで、日本の農業と漁業は政府によって一方的に潰される方向でのみ処遇されてきた。製造業が海外市場を広げて貿易黒字を積み重ねるのに連れ、その犠牲として、安価な海外食料品の輸入へと国策が方向づけられ、産業として切り捨てられる不遇を押しつけられてきた。現在、日本には3.8万km2の休耕田があり、稲の作付面積1.68万km2の2倍以上の広さで、その面積は政府による長年の減反政策のために年々拡大している。農業政策を転換して、まず休耕田を農業生産に再活用する政策が打ち立てられる必要があり、そこに従業する人間と所得が手当されなければならない。だが、それだけでは不十分で、もっと大規模な国家プロジェクトで農地を創出する計画を検討してもよいのではないか。旧ソ蓮のソフォーズのような大型の生産基地を各地に造成して、日本の穀物自給を一気に高め、穀物輸入を激減させる方策を考えることはできないだろうか。例えば離島を土地整備して、アイオワ州のような大規模農場を作れないか。

と、そこまで考えて、自給政策を立案する試算のために基礎データを拾ってみた。そして、日本の穀物輸入の規模が尋常でない事実を知らされ、穀物を自給することがどれほど困難かを数値で確認させられた。トウモロコシだけに限って、日本は米国から1600万トン(飼料分は1200万トン)を輸入している。この数字は米国の2007年のトウモロコシ全生産量の5%を占める。米国の2007年のトウモロコシの作付面積は36.6万km2で、これは米国土全体の3.8%を占め、日本の国土面積と同じ広さになる。したがって、日本向けのトウモロコシ生産のために要されている米国の作付面積は18.300km2となり、米国と同じ大量生産方式を用いても、日本は国内のトウモロコシ需要量を自給生産するために18.300km2の土地をトウモロコシ農場として用意しなければならない。この面積は日本国土の5%であり、四国(37.793km2)の半分の広さとなる。現在の稲の作付面積よりもさらに広い面積がトウモロコシのために必要となる。離島を利用できないかと考えて、佐渡島(857km2)や種子島(454km2)の面積を足し合わせる試算作業をしていたが、とても足りず、1600万トンのトウモロコシ自給計画をギブアップした。

下北半島とか大隈半島とか、十勝平野とか北上山地などはどうかと、地図を睨みながら思案を巡らしたが、何と言っても1600万トンのトウモロコシ輸入量は多すぎ、自給政策立案のための試算は限界に突き当たる。国土の5%をトウモロコシ畑に供出するのは無理だ。逆から考えれば、日本人の食生活が輸出製造業に支えられて無理に富裕化しているのであり、製造業の競争力が衰えて、海外でクルマが売れなくなれば、この大量の輸入トウモロコシで支えられている牛乳や豚肉や鶏肉は口に入れられなくなるのである。考えられる試案としては、かなり突拍子なアイディアだが、例えばロシア沿海州のウスリースクからハンガ湖一帯の広大な土地を借地して、借地料を払い、巨大なトウモロコシの生産基地を整備することぐらいだろうか。緯度的には旭川から名寄の線、北緯44度近辺で、米国ではアイオワとミネソタの州境の線になる。無論、そのためにはロシアとの平和条約と友好関係の前提が絶対的に必要な条件となる。日本の近辺で、四国の半分の広大な面積をトウモロコシ畑に開拓できる原野が見つけられそうなのは、候補地としてはロシア沿海州南部しか思いつかない。サハリンでは寒冷地すぎる。北緯50度のオンタリオでトウモロコシ栽培は無理だろう。

今日(10/19)は放送の第2回で、大豆についての特集が予定されている。これも見逃せない。この番組で穀物と食糧の問題について理解と関心が広がった。番組の司会はかわいい伊東敏恵であり、伊東敏恵が出ているだけで放送を見る動機づけになる。NHKらしい魅力に満ち溢れた、感じのいい田舎育ちのお嬢様。早く夜9時のニュースにキャスターとして復帰して欲しい。山口県立徳山高校出身、東京女子大学卒。
 
by thessalonike5 | 2008-10-19 23:30 | 新自由主義と反貧困 | Trackback(1) | Comments(12)
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Tracked from 子供や孫の味方 at 2008-10-21 11:54
タイトル : アメリカが食料危機を作り出す 
NHKスペシャル『世界同時食糧危機(1)』 - 米国の食糧戦略を批判  NHKの放送を見て、今に日本も食料危機に陥っている国と同じ状態になるのではないかと危惧しています。自給率が高い北欧諸国がやっている農家保証と同じように、民主党の農家最低所得保証制度が日本の食料自給率を上げると思います。  自民党のおこなってきた減反政策の失敗といえましょう。  第2次大戦の末期から終戦後は、学校の校庭も畑になりました。 ゴルフ場も芋畑に変身することでしょう。  アメリカがおこなった今回の金融詐欺によ......more
Commented by ぽぱい at 2008-10-19 18:27 x
原油、とうもろこし、小麦の価格が下がりはじめて、私のような地方に住む人々の不安感も薄れはじめている。
株の下落や給与の伸び悩み、企業の販売不振による収入減の不安はあるが、相変わらず食料や飲料水の奪い合いが今後始まりかねない危機感はない。
Commented by タイムシーカー at 2008-10-19 22:15 x
いつも楽しく拝見させて頂いてます。また、非常に勉強にもなります。最近では更新が待ち遠しいくらいです。
今日もNHKスペシャルで「世界同時食料危機2」をやってましたね。僕は金融危機よりも深刻な問題だと思っています。そして、日本政府の出遅れが気になります。
Commented by 1年位前から見てます at 2008-10-19 22:17 x
最近のNHKの姿勢は少しですがマトモな方向に変わっているのではないでしょうか。
パチンコ、宗教団体のCM、本当に頭の悪い人間がウンチクを並べる報道番組、どの局を見ても似たり寄ったりで真似事の内容を延々と垂れ流すワイドショー etc etc、民放各社が視聴者バカにしている様に感じられる今、NHKの変化には少しですが安堵感を覚えます。
うちの母親など、多くの女性はNHKより民放を見る事が多いと思うのですが、益々日本女性の民度が下がっていくのが本当に恐いです・・・
Commented by shin-yamakami16 at 2008-10-19 23:14
NHKの番組には、非常に優れた視点を持ったものと、政府・自民党の顔色を窺いながら作ったのではないか、と思われる程卑屈なものが、同居しているように感じられます。例えば、「ママは戦争に行った」は、イラク戦争に参加してPTSDになった米国婦人兵の悲劇的な実態をレポートした、民放番組が及びも付かない優れた番組でした。一方、防衛大学校教授を呼んでの「グルジア問題」を取り扱った『クローズ・アップ現代』では、事の発端となった侵略行為の当事者を曖昧にしたままの、低劣極まる番組でした。ニュース番組も、総体的に自民党政府に配慮した内容であることは,よく注意していると容易に分ります。その点で、英国BBCとか、FRANCE2には、現段階では、到底及びません。


Commented by NORARA at 2008-10-20 02:20 x
番組名の検索でこちらに来ました。素早い分析、感嘆しました。最近、日本の置かれている状況が気になり始めて、こういうことが言える人になりたいと勉強中です。
トウモロコシ畑については、番組中で一つヒントがあったように思います。輸入しているのは種実だけですが、国内生産すれば、葉も茎も粗く粉砕して飼料とすることができるという下りです。すると作付面積は減らせるのではないでしょうか。ほんの数割かもしれませんが...。また、生産地を国外に求めると、日本はエネルギー自給率も低いですから、微妙ですよね。地域内である程度の飼料を自給できる産地を増やしていければ、第一歩になりそうですが、その先はまだ思いつきません。
2回目はうっかり見逃したので、22日の再放送が待ち遠しいです。これからもよろしくお願いします♪
Commented by 荻原 理 at 2008-10-20 07:29 x
以前、水トクの最終回で、関口宏氏司会の「緊急報道スペシャル!~食糧危機~あなたは生き残れますか」でも、似たような内容が
放送されていました。
田中義剛氏、永島敏行氏、高木美保氏、浜美枝氏と言う「農業に詳しい
芸能人」が「現在の農水省職人・農業従事者・農林族議員」、顔負けの
議論を展開し、「農政で、彼等に指導者を交代して欲しい」と
思わざるを得なくなりました。

使用不能に成った棚田・借金数千万円を抱えての酪農者の廃業と、
暗澹たる気分に成りました。

関口氏は「水曜ノンフィクション」と、又同じTV局でドキュメンタリーの
司会を務め始めましたが、「誰か他に若い人は居ないのか!」と叫び
たいです。マスコミ・ジャーナリスト業界の怠慢、ここに極まれり、です。
Commented by アルス鬼頭  at 2008-10-20 13:28 x
まだまだ今の日本人には、無駄が多いと思います。強制的に輸入量を減らせば、皆、食べ物をだいじにするでしょう。日本の自給率を上げるには、輸入量をへらすのも一手でしょう。自然と耕作放棄は減りますよ
Commented by ぶじこれきにん at 2008-10-20 15:30 x
もう日本が食料を外国から買いあさるのは無理なのかも知れない。
Commented by 蛙太郎 at 2008-10-20 18:27 x
安い外国からの食料に慣れてしまった日本人。
国内産は高い。
つぎつぎ値上げに百姓は何もいえない。
みんな儲けるのに精一杯で、肥料は上がる、トラクターは上がる、コメの値段は上がらない。何故?
Commented by むーみん at 2008-10-20 20:48 x
最近、当地域の新聞に自民党発行の「自由民主・号外」が折り込まれました。
号外のメインテーマは「農業」で、民主党の農家最低所得保証を痛烈に批判していましたが。
それにしても、都市郊外のベッドタウン(住民の大半が勤労者世帯)には不釣り合いな号外です。
Commented by 荻原 理 at 2008-11-17 23:42 x
(「毎日新聞」「読売新聞」のTV感想は読んでいないので解りませんが)
先週の水曜日のTV欄の「からむニスト」に、この番組の感想がやっと
載りました。「朝日新聞」どころか、「東京新聞」にも読者の感想が載って
いなかったので、気になっていたのですが考えている事は同じでした。
Commented by 荻原 理 at 2008-11-17 23:45 x
先日の「サンデープロジェクト」は、デンマークとフィンランドと、ノルウェーと同様、北欧の国の特集をしていましたね。なんか羨ましいです。
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