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本と映画と政治の批評
by thessalonike5


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日本に「危機感がない」理由 - G7会合と週末の経済報道から
日本に「危機感がない」理由 - G7会合と週末の経済報道から_b0090336_10181491.jpg最近、特に英語環境からのアクセスが増えていて、昨日(10/13)は全体の6.5%に上る1.151件のアクセスがあった(アクセス解析が示すPV数は18.252で、カウンターの示すviit値は13.496)。先週末のワシントンでのG7会議のあと、国内では国際経済関係で注目すべき三つのマスコミ報道があった。国谷さんがキャスターを務めてゲストに水野和夫が顔を出した10/11(土)のNHKスペシャル「アメリカ発世界金融危機」、寺島実郎と金子勝の二人が出演した10/12(日)のTBS「サンデーモーニング」、榊原英資と水野和夫が討論に参加したテレビ朝日の「サンデープロジェクト」である。特筆すべきは「サンデーモーニング」で、先週の世界同時株安とG7会合へのコメントを求められた寺島実郎は、開口一番、「これはまさに新自由主義の敗北宣言だ」と言い切った。米国政府による公的資金注入について、「アメリカの社会主義化」だとも言い、テレビを見ながら、私はまるで自分がスタジオに出演しているような気分になった。そっくり同じ事を同じ表現で言っている。



日本に「危機感がない」理由 - G7会合と週末の経済報道から_b0090336_10465973.jpg東証の8000円台が低すぎて、産業規模の観点から見れば、米国株はもっと低い水準でよく、日本株はもっと高い水準になるのが当然だとも言っていた。この主張も私の記事と全く同じだ。「新自由主義」という批判言語をマスコミで公言する論者はこれまでいなかったが、10/12は水野和夫の口から「新自由主義」という言葉が漏れ出て、世の中の空気(イデオロギー)の入れ替わりの急を教えている。金子勝は、「小泉改革の誤りを認め、金融立国論は間違いだったと認めることだ」と言い、「まだ金融の規制緩和だなどと言っている人間が日本にいる」と気炎を上げていた。金子勝の議論が最も説得的で面白く、できるだけ長い時間聞きたい内容を持っている。「ポールソンのような人間は一刻も早く引き降ろして新しい財務長官を就けるべきだ」と言い、「米国の場合の不良債権の処理は、サブプライムを含めた債権が細切れされて複雑に証券化されているために、それを整理計算して損失を確定するのに膨大な時間がかかる」と述べ、不良債権買取と公的資金注入の技術的困難を指摘していた。

日本に「危機感がない」理由 - G7会合と週末の経済報道から_b0090336_10182441.jpg金子勝と寺島実郎の二人の議論をもっと聞きたかった。この二人が出演しながら、金融危機のトピックスで討論時間が10分ではあまりにも短く、視聴者として物足りなく、二人の方も言い足りなげで不満そうであり、金子勝と寺島実郎の二人で30分でも1時間でも議論させる報道番組にすればベストだった。岸井成格が関口宏に指示をして、ロス疑惑やノーベル賞の話題を無理に突っ込み、金融危機の時間枠(金子勝と寺島実郎による新自由主義批判の報道時間)を短縮させていたのは明白だった。これほど経済危機が切迫して、国民レベルで問題を考え、危機の打開策を見出さなくてはならないときに、くだらないロス疑惑のワイドショー情報で潰している番組もあり、呆れていたが、ネットを見れば、マスコミ以上に小沢信者のブログ左翼が三浦和義問題に夢中になっている様子もある。ブログ左翼の趣味に口出しする必要はないが、国民世論に責任のあるマスコミは、ロス騒動の茶番で金融危機の報道にオブストラクションをかけることは控えて欲しい。国谷さんのNHKスペシャルは、できれば毎週定番で放送をお願いしたい。

日本に「危機感がない」理由 - G7会合と週末の経済報道から_b0090336_1028545.jpg国谷さんの番組の方は、企画から取材と編集の時間が短かったせいで、期待したほど濃い中身はなかったが、レバレッジや証券化商品という核心になる金融問題の中身について、NHKらしくアニメーションを使ってわかりやすい説明が加えられていた。それと、この番組での国谷さんは批判者としてのスタンスが明らかで、スタジオに呼んだ元日銀理事の平野英治や中継で出演したロンドン・ビジネス・スクールのリチャード・ポルテスに対して、当局や専門家はこの金融バブルをどうして食い止めることができなかったのかを鋭く質していた。国谷さんは常に視聴者の立場に立っている。これまでの経済特集放送では、何が世界で起きているかを明らかにする報道者のスタンスで、榊原英資や水野和夫と議論しながら客観的に問題を解説して、日本の企業や国民に認識と課題を提示する役割だったが、今回はかなり違っていた。表情が厳しかった。それにしても、経済の専門家でもないのに、リアルタイムのディスカッションでリチャード・ポルテスを押しまくる国谷さんの気迫と英語力に圧倒させられる。こんな芸当ができるのは日本中で国谷さんだけだ。

日本に「危機感がない」理由 - G7会合と週末の経済報道から_b0090336_10184578.jpgG7で出された「五項目の行動計画」は、まるで日本の官僚の作文のような抽象的な文言が並び、中身のなさが際立っていたが、会議を終えて大西洋を戻ってきた欧州の閣僚たちが危機感を感じ、10/12に緊急首脳会議を開いて、短期金融市場の銀行間取引に政府保証を与える措置を発表した。英国は10/13に国内4行に6兆円の公的資金を注入すると発表、週明けの世界の市場での株価反発に繋がった。10/12の榊原英資の解説では、欧州側はこの合意(銀行間取引の政府保証・預金全額保護・公的資金注入実行)をワシントンで実現しようとしたが、ポールソンが合意せず、「各国で具体行動」の抽象表現になった経緯だと言う。榊原英資は、米国が「具体行動」に合意できなかった理由は、FRBの資金に余裕がないからだと説明していた。事実であれば、これはきわめて重大な指摘で、巷間言われている理由、すなわち、どこの銀行からどれだけの金額で不良債権を買い取って、どれだけ資本注入するか算定と判断が難しく、銀行と政府の両方が納得できる線を引くのが難しいから、というマスコミ報道の一般説明を覆すことになる。FRBの資産が問題の本質であれば、根は深い。

日本に「危機感がない」理由 - G7会合と週末の経済報道から_b0090336_10185635.jpgG7会合の映像を見ながら気になったのは、財務長官のポールソンとFRB議長のバーナンキの二人の関係である。仲がよさそうに見えない。二人が協力して難局に当たっていない。二人で隣り合って座っている映像では、互いにほとんど会話をしていないし、顔を合わそうとしていない。会議の事前のカメラ撮りで、カメラはホストである正面に座る二人を撮るが、他の国の閣僚たちは資料を見ながら相談をしているのに、二人はただ前を見て、居場所が悪そうに時間を持て余している感じなのである。一見して、バーナンキはインテリであり、学者肌で、論じたい経済の理論的中身は大量に頭脳の中にあるのだが、政策の実権を握るポールソンと肌が合わず、ポールソンの独走に苦虫を噛み潰している。ポールソンは株屋のビジネスマンで、ドライバーであり、知識人的素養はなく、むしろ学者が苦手で、バーナンキの立場を無視して、自分の利益(ゴールドマンの保全)のために政府の政策を一方的に動かしている。榊原英資の指摘が当を得ているかどうか、今後の情報に注目したいが、おそらく「金がない」と言う意味は、米国政府の国債発行余力の問題であり、また、米国債を引き受ける市中銀行がないという意味なのだろう。

日本に「危機感がない」理由 - G7会合と週末の経済報道から_b0090336_1019792.jpg金子勝が言っていた問題、「なぜ日本はこれだけの危機なのに誰も危機感がないのか」について、ずっと考えていたが、自分なりの結論が出た。現在の日本は1979年の第2次オイルショックのときのような「一億総中流」の社会ではないからだ。深刻な階層分解が起きていて、二層化した構造が固定した経済社会が循環していて、利害が一つにならないのである。具体的に説明しよう。この危機に対して、経団連と官僚機構は消費税増税と外国人移民の門戸開放で乗り切ろうとしている。国内に大量の外国人労働者を流入させ、現在の低賃金をさらに切り下げ、人件費の削減で企業経営を守ろうとしている。日本で非正規雇用に向かい風が吹き始めた状況に対応して、外国人労働者という切り札で問題解決を図ろうとしている。外国人労働者が増えれば、賃金は下がり、労働者の地位や権利はさらに不安定になり、地域の治安も悪化し、公共教育にも悪い影響が出て、日本の市民社会は壊れるが、経団連はお構いなしで、彼らの危機克服の処方箋は外国人労働者なのである。経営側はこれまで以上に極端な新自由主義の社会体制を国内に固めようと躍起になっている。経営側と労働側が利害が分裂していて、30年前のような「一億総中流」とは前提が異なっているのである。

日本に「危機感がない」理由 - G7会合と週末の経済報道から_b0090336_10191614.jpg個々に危機感はあるが、その危機感が方向性として一つにならない。全く違う方向を向いている。だから、「日本に危機感がない」ように見えるのだ。マスコミは、朝日新聞を含めて、経団連と官僚機構の主張を代弁して、経団連と官僚機構の説く危機克服の方策を訴え、社会保障のためには消費税を上げなければならないと言い、さらなる改革が必要だと言い、国民に向かって改革を訴える。しかし、そのマスコミのプロパガンダを聞いているのは国民で、国民にはそれが本当の危機克服の方向性だとは納得できず、世論として支持されて広がることはない。官僚機構の無駄を削ぎ落とし、予算を適正に配分し、社会保障を充実させて国民の生活を安心させることを求める。そして、非正規雇用を減らし、賃金を上げて、国内の消費市場を拡大させる方向での成長を求める。けれども、その声は経団連と官僚機構が支配するマスコミには届かず、世論を大きく盛り上げることができない。どちらの意見も国論とならない。だから、一見して、「日本に危機感がない」状態が現出するのである。二つのベクトルが正面からぶつかり合って、相殺し、一つの方向性にならないのである。どちらかのベクトルが消えなくてはいけない。国家の方向を一本にするには、二つに分裂した利害を一つに統一するしかなく、それは政治でやるしかない。

日本に「危機感がない」理由 - G7会合と週末の経済報道から_b0090336_10192715.jpg

by thessalonike5 | 2008-10-14 23:30 | 世界金融危機
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