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本と映画と政治の批評
by thessalonike5


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米国の生活不安 - 年金、増税、失業、住宅差押、クレジットカード停止
米国の生活不安 - 年金、増税、失業、住宅差押、クレジットカード停止_b0090336_1148746.jpgNYSEが348ドルの大幅下落となった朝、本日10/3の日経新聞は、トヨタの従業員削減のニュースが1面記事になっている。すでに今年3月から9月までの半年間で全体の2割に及ぶ2千人の期間工を解雇。トヨタの国内生産は輸出向けが6割を占め、米国や世界市場の低迷を受けて7年ぶりに国内生産が前年を割る事態となった。3面には関連して全世界で新車販売が急減少している記事があり、世界の自動車市場の25%を占める米国で9月の新車販売台数が前年同期比26.6%減少、17年ぶりの低水準に縮小した。日本でも新車販売の縮小がずっと報道されていたが、同じ現象がドラスティックな形で米国でも起こった。欧州の新車販売台数も8月までの統計で4か月連続の減少、しかも減少幅は次第に拡大、8月は前年同期比16.5%まで落ちている。実体経済の不況は、住宅に次いで商品単価の大きな自動車から顕著になり始めた。新車が飛ぶように売れていた中国でも状況が急変化、8月は前年同期割れになっている。



米国の生活不安 - 年金、増税、失業、住宅差押、クレジットカード停止_b0090336_126422.jpg米国では、住宅と同様、自動車金融ビジネスが破綻寸前の危機に瀕していて、GMとサーベラスが共同出資するGMACというカーローン会社が4-6月期に25億ドルの巨額赤字を計上、政府に不良債権の買取救済を求めている(日経3面)。この問題は「世界」10月号の金子勝論文でも言及されていて、2001年から続いていた自動車バブルの崩壊として分析されている。米国では中古車市場が膨らみ、供給圧力で中古車市場が飽和状態となり、価格の下落に歯止めがかからなくなっている(P.134)。この傾向はピックアップ車や大型車で特に強く、それが小型車にも徐々に浸透しつつある。金融危機による不況と原油高は車好きの米国人に自動車離れを強いる事態となった。自動車ローンの審査を厳しくすれば販売台数はさらに落ち込む、審査を緩めて融資すると債務不履行が増えて金融会社の経営が破綻する。政府はビッグ3を救済する250億ドルの政府保証融資を決めたが、米国の自動車産業は金融産業の次に奈落の底に落ちる可能性がある。

米国の生活不安 - 年金、増税、失業、住宅差押、クレジットカード停止_b0090336_12155950.jpgリストラ、住宅差し押え、クレジットカード停止、米国の労働者の生活不安も切実さを増す。米国は株と債券で運用する401Kの民間年金が一般的だから、金融商品の暴落で積み立てた年金が支給されなくなる可能性が生じ、日本以上に年金不安が深刻になる。例えば、加州職員年金基金のカルパーズは、原油価格が1バレル100ドルを超えたところから年金原資を原油先物投機に突っ込み、ヘッジファンドに運用させて1バレル147ドルまで高騰させたが、NYSEの暴落と共にNYMEXも暴落し、現在は1バレル93ドル台まで下がっている。今後も確実に下がる。リーマンやメリルなどの投信で運用していた分も含めて損失は小さくないだろう。米国の年金不安はまだ報道の表面に浮上していない。来年は間違いなく大きなニュースになる。米国には日本以上に社会保障のセーフティネットがない。失業して病気を患えば、そこで人生は破滅する。日本のような製造業と産業の裾野の広がりのない米国は、外国からの資金流入が途絶えてしまえば自力で国内市場(消費市場)を興すことが難しい。

米国の生活不安 - 年金、増税、失業、住宅差押、クレジットカード停止_b0090336_1271029.jpg1929年恐慌のときは米国は世界の工場で、圧倒的な生産力と競争力を持つ製造業を国内に持っていた。現在の米国は外国の製品を輸入して消費するだけだ。社会保障を整備するためには巨額の国家資金が必要で、その資金は最終的には税収で賄わなくてはならない。税収の原資になる富の生産基盤が米国にはない。ITだけだ。それも真の競争力ではない。来年の米国は、財政危機と通貨危機で大揺れの年となり、年金と増税で国民の生活不安が深刻になる1年になるだろう。産業界は再編と合併を連鎖させながら大量の余剰人員を路傍に掃き出す。戦後最悪の失業率になるだろう。日本の失われた10年と同じ地獄の苦痛に襲われて国民は悲鳴を上げる。米国は日本以上に弱者が「溜め」を持てない社会であり、弱者から生きる権利を奪い取る社会である。5年ほど前、米国の大都市を歩いて、繁華街の交差点で信号待ちをしていると、必ずホームレスが近寄って来て、金をくれと紙コップを差し出してきた。あれほど景気がよく、消費拡大が続いていたときでも、目に入る都市のホームレスの数は日本の比ではなかった。

米国の生活不安 - 年金、増税、失業、住宅差押、クレジットカード停止_b0090336_12105911.jpg米国の住宅景気とか、この10年間の消費拡大とか言うが、その需要は金融バブルのマジックで媒介されていたものであり、日本と中国で生産された富が米国の消費に回っていただけだ。だから、金融バブルの米国人が食って飲んで遊んだ時点で、そこで日本と中国の生産は消費されているのであり、何も残ってないのであり、日本と中国に輸出代金として渡された米国債と米金融債はキツネの葉っぱの紙屑なのである。「輸出代金」は米国の消費市場に化け、日本人と中国人の代わりに米国人が消費をしてくれた。生産と消費はバランスされている。ただし別人格によって。騙された方が悪いと言えば悪い。それが「経済のグローバル化」の真実である。日本人が米国人のために働いて貢ぐ奴隷となること。キツネの葉っぱの紙屑を本物の金貨に代えてくれと頼んでも遅い。日本人は貧困と絶望を内側に抱え込み、身悶えしながら自己責任だと納得し、一家無理心中や衝動殺人や過労死や名ばかり管理職や鬱病の蔓延でここまで来たが、米国人は今後の社会不安をどのような形で乗り切って行くのだろう。田中宇が予想しているような暴動や混乱は決してあり得ない未来ではない。

米国の生活不安 - 年金、増税、失業、住宅差押、クレジットカード停止_b0090336_14191489.jpg戦争の可能性がある。それから、大統領が社会保障の財源捻出のために富裕層や投資家への増税を決断した場合、暗殺という最悪の事態もある。日本と違って、米国では、生活不安はそのまま社会不安に直結するはずだ。鬱屈は内にではなく外に向かう。日経1面には、オイルマネーに異変が起きている記事も出ている。今年の1月にクウェートの政府系ファンドがシティやメリルに50億ドルの資金を次ぎ込んだが、この金融危機に直面し、国内の野党勢力から投資判断を糾弾されていると言う。産油国の政府系ファンドから米国の金融機関に資金が流れるルートが止まった。この時期に米国の金融機関にカネを出しているのは、三菱UFJなど日本の銀行だけだ。中東のオイルマネーバブルも崩壊する。米国や欧州の株と債券で運用していた資金増殖が止まり、損失を出し、国内の建設投資も停滞するだろう。ドルでもユーロでも回せず、オイルマネーは行き場を失って腐り始める。原油価格の下落がそれに拍車をかける。原油は1バレル30ドルにまで下がる。昨年から今年にかけて、原油価格上昇の理由として言われてきた一つは、新興国の経済発展と旺盛な原油需要だった。現在、その説を唱え続けている者はいない。

米国の生活不安 - 年金、増税、失業、住宅差押、クレジットカード停止_b0090336_17383248.jpgベトナムの例を筆頭に、新興国の成長失速や経済基盤の脆弱さなど悲観論ばかりが議論されている。実際に、この間の株価の下落率が激しかったのは、中国(61%)、ロシア(46%)、インド(35%)、アルゼンチン(34%)など新興国で、米国に原料や製品を輸出している諸国である。デカップリングの実相は確認できない。この現状は原油価格にデフレの作用を齎す。米国のGDPはマイナスが続き、おそらく3年間はずっとマイナス成長が続く。しかもその幅が大きく、ドルの通貨下落も相俟って、マイナス成長を続けている間に、ドル換算ベースのGDPで中国に並ばれるのではないか。米国人の生活水準の切り下げは相当厳しいものになるだろう。現在、米国の経済は政府が全ての金融の面倒を見ることで活動が維持されている。破局が防がれている。政府が国債を発行し、国債がFRBから金融機関に支給され、金融機関が潰れずに済んでいる。政府保証融資で自動車メーカーが倒産から免れている。まるで社会主義国だ。国債は買ってくれるところがあるからカネ(ドル)に化ける。日本と中国と産油国が喜んで国債を引き受け、輸出代金を交換していたから、国債は市場価値を失わず、米国内にカネが回り、そのカネを自在に使うことができた。

貿易赤字と財政赤字の国の発行した国債を喜んで引き受けて貯め込んでくれるマニアックな外国がなくなれば、米国債の市場価値の測定基準、すなわち信用貨幣の信用度の判断基準は、米国産業と米国民の納税能力(赤字国債の債務返済能力)のみになる。国債発行枠に限界が来るときが必ず来る。

米国の生活不安 - 年金、増税、失業、住宅差押、クレジットカード停止_b0090336_11492028.jpg

by thessalonike5 | 2008-10-03 23:30 | 世界金融危機
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