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本と映画と政治の批評
by thessalonike5


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空気・関心・争点を入れ替える - 経済政策からイデオロギーへ
空気・関心・争点を入れ替える - 経済政策からイデオロギーへ_b0090336_161619100.jpg中山成彬の一連の問題発言も、麻生首相の集団的自衛権の解釈改憲発言も、小泉純一郎のサプライズ引退も、この3日ほどの間に起こっている出来事は、選挙のための自民党側の計画的な戦略行動であり、巻き返しの動きではないかと疑われる。その目的は世論の空気を入れ替えることであり、人々の関心の対象を変えることだ。選挙の争点を経済問題からイデオロギー問題に動かすことである。普通に考えれば、内閣発足から4日で閣僚が辞任に追い込まれるのは、自民党にとって選挙に悪影響を及ぼす大きな痛手に違いない。だが、そこには別の計算もあって、民主党とパイの分割が争われるマジョリティの保守層にイデオロギーの刺激剤を投与し、彼らの右翼的覚醒を昂めることによって、民主党に流れるべき票を自民党に止める効果が期待される。グルジア問題が勃発して、米国の有権者のイデオロギー的感情が刺激され、劣勢だったマケインがオバマを支持率で上回った情勢があったが、自民党が今回狙ったのは、そうした世論状況の意図的な創出ではないか。



空気・関心・争点を入れ替える - 経済政策からイデオロギーへ_b0090336_16201816.jpg選挙の争点はまだ確定されていない。だが、これまでのところでは、景気対策と財源問題が主たる論議となり、後期高齢者医療制度の見直しに関心が集まり、年金問題や汚染米問題で野党が与党を追及する選挙戦の構図が予想されていた。財政や社会保障といった経済政策が争点として浮上していた。憲法や安全保障や歴史認識の問題は今度の選挙の争点から除外されていた。選挙戦で戦後教育や日教組の問題が論争されるとは考えにくいが、テレビ討論会で話題に上がれば、与野党の論客は何かを言わなくてはならないし、議論の応酬が展開されて放送の物理的時間が埋められる。その政党間の論戦情報は、視聴者である有権者の耳から入って投票に影響を与える因子となる。経済問題よりイデオロギー問題の方に関心が高く、敏感に反応する保守層の有権者は少なくない。そういう人間はこの20年間に大量に生産されてきた。ネットの中では、早速、右翼掲示板に多数のスレッドが並び立ち、中山成彬擁護の論陣を張るネット右翼が夢中になっている。水を得た魚のように騒ぎ始めた。

空気・関心・争点を入れ替える - 経済政策からイデオロギーへ_b0090336_16164036.jpg経済政策の知識のないネット右翼にとって、ここまでの選挙戦は退屈だったに違いなく、経済問題で自民党が不利に追い込まれた状況に切歯扼腕していたはずだが、日教組批判の爆弾が落ち、ようやく自分が暴れる戦機が到来して一躍元気になった。右翼掲示板はお祭り騒ぎの状態になっている。この選挙戦だけでなく、ハト派の福田政権が続いた1年間、彼らは窮屈な冬眠状態にあり、長野聖火リレー以外は全く吠え騒ぐ出番がなかった。中山成彬の発言は、全て偶然に漏れた失言ではなく、確信犯として周到に準備して行動に出た政治であることは明らかだが、特に9/27(土)の宮崎での開き直り発言(日教組をぶっ壊す)は、文教族の同志である麻生首相と連絡を取った上で計画的にやっていて、辞任前になるべく世間に大きな衝撃を与えておけという指令に沿ったものと思われる。当然、麻生首相は週明けに記者団から今度の問題について釈明を求められるし、そのときは中山成彬を擁護して日教組批判の持論を展開するだろう。マスコミが騒ぎ、場合によっては、「日教組が正しいか、私が正しいか、国民に問いたい」の解散もあり得る。

空気・関心・争点を入れ替える - 経済政策からイデオロギーへ_b0090336_16165059.jpg空気は一瞬で入れ替わる。後期高齢者医療制度や年金問題や汚染米問題は関心の背後に退き、イデオロギー問題が前景に配置され、そうなれば、左翼標的のライフル射撃は麻生首相の得意種目であり、防御が苦手で攻撃が得手な麻生首相の本領発揮の選挙戦となる。麻生首相に反論する主役は共産党と社民党で、イデオロギー対立の論戦模様が際立ち、民主党は一歩引いて存在感が薄くなる。民主党の中には西岡武夫がいる。2年前に教育基本法改正に辣腕を振るった右翼文教族の大物で、日本会議の重鎮メンバー。中山成彬とは水魚の交わりだろう。民主党には元日教組の興石東や教育基本法改正に反対した左派の岡崎トミ子もいる。これらが一つの党に結集しているのが不思議だが、日教組論議が民主党に持ち込まれると、集団的自衛権や憲法改正と同じで、党内は硬直して左右分裂の恐怖が走り、議員も幹部も一歩も動けなくなる状態になる。民主党にとって最も危険で回避しなければならないのは、左右のイデオロギー対立が顕わになる政策論争が選挙の争点になることで、そうなったら選挙で自民党と戦う前に党内が二つに割れるのである。

空気・関心・争点を入れ替える - 経済政策からイデオロギーへ_b0090336_1617370.jpg年金、医療、財政、景気対策といった経済政策が争点なら、自民党支持の有権者も「民主党に一度任せてみよう」という選択が比較的気楽にできる。だが、教育や安全保障が問題になったときは、「民主党に任せて大丈夫だろうか」という不安な気分が頭を擡げる。民主党の中には旧社会党出身議員が少なくなく、イデオロギー問題に神経過敏な保守層は、それを民主党への抵抗感や拒絶感の根拠にする。そうした状況が現実化したとき、すかさず出てくるのが三宅久之や浜田幸一などで、ここ暫く封印していた民主党への恫喝を思いっきり飛ばしてストレス発散する好機となる。財政や社会保障の論議ばかりで出番が減っていたテレビ右翼の青山繁晴、金美齢、勝谷誠彦、宮崎哲弥らが絶叫と咆哮を始める。政治番組はいつもの右翼の宣伝放送に回帰する。彼らもギャラが欲しい。左翼攻撃ネタがないとテレビで仕事ができない。そして選挙戦に勇躍参加したい。右翼の勝利のために大暴れしたい。もし今後このような局面に展開したならば、中山成彬の暴言作戦は成功であり、分別のない稚拙な失態に見えて、実は高度な政治戦術の仕掛けであり、選挙を自民党有利に運ぶ秀逸な戦略だったということになる。

空気・関心・争点を入れ替える - 経済政策からイデオロギーへ_b0090336_16171455.jpg人間はプロレタリア化すればするほどイデオロギッシュな存在になる。意識が先鋭に政治化する。そして日本の場合、中産階級の没落は常に右翼のイデオロギーへの吸収と包摂に結果する。1930年代のときも経済恐慌は日本人を右翼国体思想へと押し流し、侵略戦争のロボットを大量生産した。今回も、バブル崩壊後のリストラ不況と中産階級の没落は「ゴーマニズム宣言」が大流行する社会状況として現出し、「戦争論」を聖書のように信仰する大量の青年右翼を増産して現在に至っている。15年ほど前から、街の本屋の「時事社会」の棚からは、社会科学やジャーナリズムの文献は悉く撤去され、論壇右翼のプロパガンダ本や無内容な反中嫌韓従米のアジ教宣本ばかりが積み置かれるようになった。渡辺昇一、井沢元彦、桜井よしこ、落合信彦、黄文雄、金完燮、李登輝、岡崎久彦、手嶋龍一。市場で売れる本は右翼と新自由主義者の本ばかり。冷戦が終結したとき、「イデオロギーの時代は終わった」と言われた。が、少なくとも私の実感は全く逆で、日本の社会空間はそこからイデオロギッシュに変容を遂げ始め、ギラギラと濃度を強め、石原慎太郎が知事になり、北朝鮮拉致問題が社会を蓋い、安倍晋三が教育基本法を改正した。

空気・関心・争点を入れ替える - 経済政策からイデオロギーへ_b0090336_16172281.jpg今日(9/28)の「サンデーモーニング」は、小泉純一郎回顧特集のような番組内容になり、田中秀征と岸井成格の二人が小泉純一郎の功績を賛美する言説を垂れ流していた。古い自民党の体質を変えたとか、派閥政治の旧弊を打破したとか、構造改革と行政改革を断行して日本経済の危機を救ったとか、まるで英雄扱いで、小泉改革が日本社会に働く貧困層を生み出した事実や、米国ですら誤りを認めたイラク戦争への自衛隊派兵の問題や、社会保障費削減で介護や医療や福祉の現場が絶望に瀕している現状については、全く省みられることがなかった。関口宏が小泉純一郎を高く評価しているのがよくわかったが、であれば、あの年末の新自由主義批判の大型特集は何だったのか。あのときの放送ほど構造改革とは何かを批判的に浮き彫りにしたテレビ報道はなかったと思ったが、今日の小泉礼賛報道には裏切られた気分がする。小泉純一郎の引退発表から4日経ったが、まさか今後、選挙中も報道陣が小泉純一郎を追いかけ、テレビで映像を流し、岸井成格が提灯解説するヨイショ報道が続くのだろうか(第二次小泉劇場)。無意味な小泉報道がテレビの画面を埋めれば埋めるほど、汚染米問題は背後に退き、民主党に流れる票が自民党に戻って行く。

しかし、それにしても、最近つくづく思うことだが、麻生首相、中山成彬、太田誠一、故松岡利勝、久間章生、西岡武夫と、九州の国会議員は異常なのが多い。

空気・関心・争点を入れ替える - 経済政策からイデオロギーへ_b0090336_16173274.jpg

by thessalonike5 | 2008-09-28 23:30 | 政局
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