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本と映画と政治の批評
by thessalonike5


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集団的自衛権の策略と支持率の選挙情勢 - 政界再編の考え方
集団的自衛権の策略と支持率の選挙情勢 - 政界再編の考え方_b0090336_16484666.jpgこのところ、日に2件も3件も重大なニュースが飛び出してくる。日本の政治と選挙の問題があり、米国の金融危機の問題があり、どの問題からも目が離せず、記事にして論じる必要のある問題ばかりが積み上がっていく感覚がある。時代の転換期であることを強く感じる。時代の動きのスピードが速くなり、半年前に較べて2倍から3倍の速度で動き、凝縮された毎日の時間が過ぎている。報道がとても慌しい。世界が急速に変わっている。時代の変化、それは私から見て、従来の支配層にとっての没落の危機の情勢を意味するが、彼らが没落の危機から逃れるべく時代の変化に向かって懸命に延命策の意思決定をしていて、その意思決定が(同じ支配層の一部である)マスコミの記事になって流れて来る。小泉純一郎の問題、選挙の国内政治の問題、米国の金融危機の問題、一日に3本の記事を上げないと時代の流れに目を配った感じがしない。小泉引退について地方紙がどう見ているかも気になるが、今日は選挙情勢について追いかける記事にする。



集団的自衛権の策略と支持率の選挙情勢 - 政界再編の考え方_b0090336_16485640.jpg麻生首相がNYで集団的自衛権の行使について、「憲法解釈を変更して容認すべきだ」と語ったことは大きな意味がある。私の記憶では、歴代の首相で集団的自衛権の解釈改憲にここまで積極的に踏み込んだ発言をした例はなく、あの安倍晋三でもこれほど率直で過激な表現はしていなかった。この集団的自衛権の憲法解釈変更の踏み出し発言が、単なるタカ派の本質露呈の軽率行為ではなく、衆院選挙を勝利に導くための周到な戦術である事実に気づいている人間はどれほどいるだろうか。新聞やテレビの報道でも、そうした視角から今度の麻生発言の真意を分析している解説は一つもない。麻生首相は、集団的自衛権の解釈改憲の是非を総選挙の争点の一つに据える作戦を考えている。この問題発言で世論を喚起し、民主党に論戦を挑む戦略なのだろう。政治に無知なブログ左翼は知らないことだが、この戦略はきわめて効果が大きく、仮に争点に浮上させることに成功すれば、自民党に逆風になっている選挙戦を一気に形勢逆転できる戦略兵器となり得る。

集団的自衛権の策略と支持率の選挙情勢 - 政界再編の考え方_b0090336_1649413.jpgすなわち、この戦略弾を民主党陣営に投下すれば、民主党を二つに割ることができる。政治を知る者なら周知のとおり、民主党の中には集団的自衛権の解釈改憲に賛成(多数右派)と反対(少数左派)と二つの立場があり、すなわち論戦の争点として突きつけられたとき、明解な回答ができず立ち往生を余儀なくされる。例えば、日本テレビの報道番組で討論企画が組まれ、出演した幹事長代理の石原伸晃が代表代行の菅直人にこう尋ねる。「菅さん、それじゃお聴きしますが、民主党は集団的自衛権の憲法解釈変更に賛成なんですか、反対なんですか」。菅直人の説明は曖昧なまま要領を得ず、あの3年前の郵政選挙で竹中平蔵に論破された場面の再現となり、石原伸晃と日本テレビの番組司会者に罵倒され、「まず民主党の中で賛成か反対かハッキリさせて下さいよ」と追い討ちをかけられて恥をかく顛末となる。テレビ討論で民主党は確実に支持率を下げる。小沢一郎の集団的自衛権論については、これまでブログで何度も取り上げて注意を促してきた。小沢一郎は集団的自衛権の行使容認の立場である。

集団的自衛権の策略と支持率の選挙情勢 - 政界再編の考え方_b0090336_16495798.jpg集団的自衛権の行使容認派だが、小沢一郎はそれを問われてテレビで発言する度に、何度もコロコロと主張を変えてきた。どう変えたかと言えば、憲法を改正するわけにはいかないから解釈で可能にするべきだと言ったり、解釈で可能にしていれば歯止めがかからなくなるから明文改憲するべきだと言ったり、その場その場で言説を変え、主張の言質を取られないように巧妙に逃げてきた。自由党から民主党に変わった最近は後者の発言をする機会が多く、それは民主党支持者の視聴者を安心させるためで、憲法改正の棚上げを左派に印象づけるためである。憲法改正など簡単にはできないだろうから、それまで集団的自衛権の行使容認はお預けだとメッセージしているのである。ブログで何度も触れたが、小沢一郎が政策上得意な専門領域があるとすれば、それは集団的自衛権の問題と政治資金規正法の問題の二つである。この二つには詳しい。「普通の国」とは軍隊をきちんと持って戦争をする国であり、小沢一郎によれば平和憲法で軍隊と戦争を禁じている日本は「普通の国」ではない。この思想は、民主党の多数派である右派に共有されている。
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集団的自衛権の策略と支持率の選挙情勢 - 政界再編の考え方_b0090336_16494661.jpg報道機関から支持率が発表された。マスコミやブログ左翼は、麻生内閣の発足時支持率が安倍内閣や福田内閣と較べて低い事実だけに着目して、麻生自民党の選挙戦の不利を断言するのだが、私が注目するのは自民党と民主党の支持率の差であり、総裁選の演出不全や農水相が辞任した汚染米問題のために自民党に逆風が吹きながら、民主党が思うように支持率を上げられていない現状である。民主党に風が吹いていない。そこが昨年の参院選と状況が違う。特に注目すべきは、麻生太郎と小沢一郎とどちらを総理に選ぶかという問いに対して、新聞社によって差もあるが、ほぼダブルスコアで麻生太郎が選ばれている事実である。無論、この数字は政権発足時点のものだから、今後の政局の推移で差が縮まる可能性もある。だが、小沢一郎の支持が低く、特に女性からの支持が極端に低い事実は否めない。敢言すれば、小沢一郎に対する大衆の不支持すなわちプリファレンスのネガティブが、民主党自体の支持率の伸び悩みに影響を与えている。極論するなら、小沢一郎が発言する映像がテレビに出れば出るほど、民主党への期待度が下がり、支持率が下がって行く印象さえ受ける。

集団的自衛権の策略と支持率の選挙情勢 - 政界再編の考え方_b0090336_16492258.jpg小沢一郎の好感度のマイナスの現象は、単にルックスが悪いという問題に起因するだけではなく、スピーチが下を向いたままの原稿棒読みで、報道陣の質疑応答にも無愛想で、政治指導者としての資質不足を感じさせるという点もあるが、それ以上に、それらを長年見せつけられて、「政権交代」や「最後の戦い」や「国民の生活」などの同じ言葉が単調に並ぶことへの有権者の倦怠感というものが基底にあるように思われる。また、有権者が昨年11月の大連立騒動で受けた衝撃を忘れておらず、そのときの失望や幻滅や憤懣がずっと根深く尾を引いていて、現在の不支持の数字になって現出しているようにも察せられる。二人を比較すると、麻生首相の場合は自信過剰であり、上滑りな発言と軽薄な態度が顕著だが、小沢一郎の場合は逆で、本人に自信がないのが明瞭で、演説が下手なこと、政策が苦手なこと、見た目が悪いことを本人が強く意識しているために、鬱屈した劣等感が表情と態度に露わになっていて、それを努力や工夫で修正し挽回できない苛立ちが印象の悪さに拍車をかけている。小沢一郎に指導者の情熱や誠意が感じられないのはそのためで、それを有権者が敏感に反応して数字に現れてしまう。

集団的自衛権の策略と支持率の選挙情勢 - 政界再編の考え方_b0090336_1650747.jpg民主党は選挙戦で小沢一郎を前面に出さない方がいい。最後に、選挙後の政界再編についてだが、集団的自衛権の麻生発言は、選挙で民主党を割る策略であると同時に、選挙後の政界再編を睨んだ布石でもある。集団的自衛権や憲法改正を政界再編の軸にしようとする考えで、これが奏功すれば、民主党右派と自民党の大勢力の結集が実現でき、磐石の大連立政権が誕生する。現在、自民党への逆風が強くなり始めた状況で、岸井成格や田原総一朗が巧妙に工作しているのが自民民主大連立への動きで、大連立を世論に受け入れさせるべく、大連立正当化の宣伝に躍起になっている。つまり、自民+公明も民主+野党も過半数に届かず、民主党が連立に公明党を選ぶか自民党を選ぶか岐路に立たされるという想定であり、その場合は自民+民主の連立こそが最も民意に適うという理屈の撒布と教宣である。岸井成格はそこへ誘導しようとしている。それだけが自民党が政権に生き残る道だからだ。支配者である官僚と米国と経団連の既得権に最も影響が少ない政治だからだ。そして選挙の後にそのような政界再編が結果する可能性は非常に高い。私は、現在は民主+公明の連立だと予想しているが、憲法や安保が争点になれば、連立は民主+自民の方向へ転回する。

集団的自衛権の策略と支持率の選挙情勢 - 政界再編の考え方_b0090336_16501613.jpgブログ左翼の議論を見ていると、総選挙の機会に「政界再編に期待する」という声が頻繁に上がっているが、これは一体どういう願望なのだろう。想像するにブログ左翼の言う政界再編とは、民主党から新自由主義で改憲派の前原誠司ら右派が放逐されて、民主党がより社会民主主義的な政党の性格を強め、左派勢力の民主党と右派勢力の自民党へと政策軸できれいに二つに分かれる構図を言うのだろう。だが、それは政治を知らない者の議論ではないか。寄せ集め政党であり保守政党である民主党は、二大政党制実現以外の政治目標はなく、理想とする社会(社会理念)を持たず、掲げる政策は政権を取るための手段であって、理念を実現する手段ではないのだ。その点は自民党も基本的に同じであり、自由主義社会を守るという目標と理念しかなく、掲げる政策標語やマニフェストは臨機応変で融通無碍のキャッチコピーであるに過ぎない。政権(権力)を取るため守るために、二つの政党はどのようにでも政策を変えるし、新自由主義の性格を強めたり薄めたりする。右派を自民党に追いやって、民主党を社会民主主義政党に純化すれば、民主党の勢力は半分となり、すなわち嘗ての自民党と社会党の「1・1/2体制」に逆戻りしてしまう帰結となる。それでは二大政党制は絶対に実現定着しない。

集団的自衛権の策略と支持率の選挙情勢 - 政界再編の考え方_b0090336_16502726.jpgだからこそ、菅直人も江田五月も横路孝弘も保守政治家に転向し、改憲政治家で一生を終える決意をし、民主党を保守政党(=非革新政党)から動かすことはできないのである。彼らにとって大事なのは、政策を社会民主主義化して社会保障を充実させたり、労働法制を原状に戻して労働者を救うことではなく、況や日本国憲法を守り抜くことなどではなく、日本に二大政党制を実現定着させることであり、政権交代のパターン反復が永続する政治体制を日本社会に固めることである。二大政党制原理主義なのであり、そのための現実的条件は日本の保守層のマジョリティから票を取ることであり、保守層のマジョリティを自民党と二つで分け合うことである。彼らはリアリストであり、同時に二大政党制のファンダメンタリストである。民主党にとって、社会民主主義政策に走ることは、ボリューム層であるマジョリティの保守層(=読売と産経と文春と新潮が支配し掌握する層)の票を捨てることであり、ニッチ戦略の選択であり、それは民主党にとって自滅行為に等しい。それが日本の政治の現実であり、民主党の現実である。ブログ左翼はその現実を知らねばならず、それが現実だと認めなければならない。その厳しい現実を論理で認めたとき、来るべき政界再編は一体どういう具体像で結ばれるのか。政界再編の具体像は、自民党と民主党の大連立合体しかない。

それが基本線だ。そして、二党が合同大連立した瞬間に、間髪を置かず東国原英夫や江田憲司や佐々木毅などの「せんたく」が蠢き、二大政党制の「理想」の実現を再びめざして、新しい保守政党を立ち上げ、朝日新聞を始めとするマスコミから熱烈な支援を受けて、合体した自民+民主の大連立政権に挑戦を始めるのである。大連立は同時に新しい二大政党制の模索の始動の瞬間となる。それが日本の政治だ。だから、逆の論理で言えば、二大政党制を前提にするかぎり、山口二郎と後房雄の政治改革のテーゼを是認し前提して「政権交代レジーム」のフィクションを追求するかぎり、日本の政治に社会民主主義の諸政策を実現整備させることは不可能であり、両者は原理的に矛盾する二律背反の考え方なのである。

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by thessalonike5 | 2008-09-27 23:30 | 政局
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