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本と映画と政治の批評
by thessalonike5


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護送船団方式に帰着した米国 - 新自由主義金融帝国の没落
護送船団方式に帰着した米国 - 新自由主義金融帝国の没落_b0090336_9455581.jpg先週末の9/21に発表された米政府による7000億ドル(75兆円)の不良債権買取措置を柱とした金融危機対策にもかかわらず、今週に入ってNYSEは下落を続け、9/22は前日比372ドル、9/23は前日比161ドルと、二日連続で533ドルも値を下げた。リーマン・ブラザーズ破綻の後、米欧日当局が金融機関へのドル供給のスキームを決め、それを好感した株式市場が一時的に値を上げたが、その上げ幅を一気に失う大幅下落の展開になっている。普通に考えれば、政府が公的資金を使って住宅金融商品の不良債権を大規模に買い取ると発表すれば、これこそまさに最後の切り札であり、市場はその救済策に反応して株価を上げてもよいと思われるが、現実の動きは逆に出て、米金融産業の不安の深刻さが如実に現された結果となっている。日経新聞の今日(9/24)の1面特集記事では、すでに今年に入って米国の金融機関では10万人を超える従業員の解雇があり、今後さらに大幅な人員削減の波に襲われると予測されている。



護送船団方式に帰着した米国 - 新自由主義金融帝国の没落_b0090336_9461441.jpg記事によれば、NYの就業者の20人に1人が金融業で働き、市の所得の25%が金融業から齎されている。さらに米企業利益に占める金融業の比率は3割強に上り、同比率が1割の日本と較べて、米国は圧倒的に経済全体における金融への依存度が高い。実体経済への影響は深刻だろう。世界金融の都であるNYにこれから厳しい寒波の季節が訪れ、摩天楼が冬景色の世界に凍りつく時代が始まる。その2年間7000億ドルの不良債権買取救済策だが、田中宇の最新記事ではきわめて厳しい見方が示されていて、買取規模が7000億ドルでは止まらず、1兆ドルから2兆ドルに膨らむだろうと観測されている。その理由は、一つは金融機関だけでなく自動車産業の大手も経営危機で政府に救済支援を要請していて、選挙を前に共和党も民主党も大盤振る舞いに出る可能性があることと、もう一つは、今後1年間のサブプライムローンの金利変更で全米で約100万件のローン破綻が出て、1800億ドルの不良債権が発生すると見込まれているからである。

護送船団方式に帰着した米国 - 新自由主義金融帝国の没落_b0090336_12202661.jpg7000億ドルの不良債権買取は、政策としては確かに大胆で果敢な印象も受けるが、実際のオペレーションは簡単ではなく、買い取る不良債権の基準や価格が問題になると言われている。買取は財務省が入札で行い、債券に最安値をつけた金融機関から買い取るという仕組みが報じられているが、それ以外の金融機関はどうなるのか。また、金融機関側は値のつかない債券を安く買い取られることで資本不足に陥り、それは格付低下と株の投げ売りに直結するため、債券放出と同時に新たな資本補填の救済策がセットにならないと入札に応じるのが難しいという解説もある。逆に、債券を高く買うと政府がそれを市場で売るときに棄損が生じて国民負担になるとも言われている。紙屑同然のサブプライム担保証券を政府が引き取って、それを果たして市場で再度売る機会があるのか、誰が買い手として現れるのか全く疑問だが、買う政府だけでなく売る金融機関にも事情があり、問題が複雑であることが理解できる。そもそも、そういう金融機関に誰が資本補填するのか。そこにもさらに公的資金を入れるのか。

護送船団方式に帰着した米国 - 新自由主義金融帝国の没落_b0090336_10552421.jpgこの7000億ドルの買取資金は国債の発行によって賄われる。9/21の「サンデープロジェクト」に榊原英資が出演していて、その国債の引受を日本の金融機関が分担させられるのではないかという話が出ていた。米国の単年の予算は3兆ドルで日本の一般会計の4倍の規模になるが、財政赤字は4000億ドルと言われている。日本は赤字国債で歳入を補う分が30兆円。予算の中での赤字国債の比率では日本の財政赤字の方が深刻だが、金額規模で見ると米国の財政赤字も負けていない。今回、米政府は緊急総合対策のために国債発行の限度額を10.6兆ドルから11.3兆ドルに引き上げる方針を決定した。差額の7000億ドルがすなわち不良債権買取の準備金である。田中宇の予測を適用すれば、この11.3兆ドルは1年以内に12.6兆ドルに上限を押し上げることになる。11.3兆ドルは日本円に換算すると約1200兆円。日本の財政赤字は800兆円なので米国は日本の1.5倍の財政赤字になる。日本の財政赤字はバブル崩壊後に、景気対策や歳入不足が原因で急速に膨らんだ経緯がある。米国もそうなるだろう。

護送船団方式に帰着した米国 - 新自由主義金融帝国の没落_b0090336_1055461.jpgこの報道の中で気になったのは、米国の国債発行については「赤字国債」という呼び方をしないことである。単に「国債」と言っている。歳入不足を補うために日本政府が発行すれば赤字国債、米国政府が発行すれば普通の国債。ここにもマスコミと政府が結託した巧妙な世論操作の罠がある。その昔、30年ほど前、日本政府が初めて赤字国債を発行し始めた時期があり、私の記憶では福田内閣だったと思うが、発行する国債を建設国債と赤字国債の二つに区分して表現していた。記憶によれば、道路建設や空港整備など政府が社会資本投資して国民の富の基となるインフラを整備した場合には、その資金のために発行した国債は国民所得として返ってくるので建設国債と呼ぶ。公務員の給与など国の一般経費にあてがわれるものは経済的な波及効果がなく、将来の経済成長と国民所得にリターンされないので赤字国債と呼ぶ。そういう分類の基準だった。第2次オイルショックによる不況(スタグフレーション)と税収不足があり、政府は一般経費分にも国債発行が必要になったとして「赤字国債」の発行が始まった。それ以来、ずっと続いている。

護送船団方式に帰着した米国 - 新自由主義金融帝国の没落_b0090336_9463540.jpg日本が現在発行している国債を赤字国債と呼ぶのなら、米国が発行している国債も赤字国債と表記すべきではないのか。日本だけが「赤字国債」で米国のは単なる「国債」だというのは、表現として社会科学的に論理不明で腑に落ちない。財務省の世論操作の意図とそれに追随するマスコミの悪弊を感じる。さて、9/21夜に発表されたゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの銀行持ち株会社への転換の発表は、米政府による不良債権買取以上に意味の大きなニュースだと言えよう。2社が証券から銀行に業態を転換させたことにより、証券会社(投資銀行)のビジネスモデルが米国から消滅したことになる。証券大手5社のうち、業界5位のベアスタ社は銀行のJPモルガンに買収、業界4位のリーマン社は破綻、業界3位のメリル社は銀行のバンカメに買収、残っていた上位2社が銀行持ち株会社になり、まさに一瞬の間に米国から証券会社の業態が消えた。レバレッジとデリバティブの証券化金融が崩壊し、ビジネスモデルもろとも溶解したのである。銀行に変わったゴールドマン社とモルスタ社は、今後、FRBの管理下に置かれ、資本規制と監督を受けることになる。

護送船団方式に帰着した米国 - 新自由主義金融帝国の没落_b0090336_1135968.jpgメリル社はバンカメに救済合併される際にFRBから追加融資を受け、すなわちバンカメの証券事業はFRBの完全な管理下に入っている。ベアスタ社も同様で、FRBから救済融資を受ける形でJPモルガン社に吸収合併された。銀行2社が証券2社を引き取る上ではFRBの公的資金注入が条件になっている。現在、米国の債券市場はFRBと財務省の管理下に置かれた状態になっていて、事実上の国有化と言っても過言ではない。金融システムを維持し金融恐慌の発生を未然に防ぐため、財務省の権限がさらに強化され、他の金融機関への管理と監督が及ぶだろう。リスクを抱えた市場をコントロールできるのは公的機関以外になく、未曾有の債務を最終的に引き受けられるのは政府しかないからだ。証券3社を抱えた銀行3社とゴールドマンとモルスタの2社を管理し、850億ドルを注入して株を保有したAIGを管理し、住宅バブルが潰れるのを睨みながら、金融システムを崩壊から救う舵取りを続けなくてはいけない。主題はリスクの最小化であり、債券事業の縮小整理であり、追加発生する不良債権を時間をかけて償却して、銀行のバランスシートを健全化させることである。言わば軟着陸に向けた管理された信用収縮のオペ。

護送船団方式に帰着した米国 - 新自由主義金融帝国の没落_b0090336_1159837.jpg現在、米国の金融を支えているのは政府の資金すなわち国民の税金であり、あらゆる金融業務が財務省の提示した目的を達成するための公務の性格を帯びる。すなわち、銀行で買収した証券会社の債権処理に従事する役員も従業員も事実上の金融公務員となり、自社の売上や利益のためにビジネスする人間ではなくなる。財務省とFRBの管轄下で米国の金融システムを破綻から回避させるための仕事が主たる任務になる。全ての金融機関が国の指揮命令下に置かれ、足並みを揃えて経営と業務を遂行する。これは「護送船団方式」と言われた嘗ての日本の金融機関のあり方と同じものだ。その昔、大蔵省銀行局は箸の上げ下げまで事細かく銀行に指図し、銀行は東大卒の幹部候補をMOF担にして銀行局に張り付かせ、夜毎ノーパンしゃぶしゃぶで大蔵官僚を接待して、ありがたくご指導を頂戴していた。昔、若かった頃、第一勧業銀行の女子行員の制服は蝶の柄のブラウスと黒のベストで、私は、何とも銀行らしくデザインのセンスが悪いなあと思いながら窓口で見ていたが、なぜか富士銀行など他の銀行の制服も妙に趣味の悪さが似ていて、不思議に思っていたことがあった。その理由はバブル崩壊後の金融危機のときに明らかになった。

護送船団方式に帰着した米国 - 新自由主義金融帝国の没落_b0090336_1347385.jpg大蔵省銀行局の官僚が、ここの銀行はこれ、ここの銀行はこれと、自分たちの趣味で女子行員の制服のデザインを決めていたのである。その情報に接したとき、私は呆気にとられたが、それが護送船団方式の真実を何よりよく物語る逸話だった。時代は廻り、新自由主義が日本の金融経済システムを侮蔑して言った護送船団方式の類型に米国自身が見事に帰着し、政府による保護と救済と監督によって金融機関を守ろうと躍起になっている。これは新自由主義者が言っていた自己責任原理の放棄であり、「大きな政府」への金融の従属であり、客観的に見たとき、すでに米国の金融経済は市場原理主義の体制ではなくなっている。彼らが悪魔のように忌み嫌っていた「社会主義」そのものに他ならない。米国の銀行はすでに自己の利益追求が第一目的ではなく、政府の指示と監督に従って全体のシステム維持のための役割行動しか許されない。投資にも債権の回収にも政府のアプルーバルが要る。意思決定は政府に従属し、財務も政府に依存し、市場経済の中の自由で独立な企業ではないのである。嘗ての日本の大蔵省のように財務省が強大な権限を持ち、財務省が米国の金融を回している。米国を礼賛し日本を侮辱していた竹中平蔵は、この事態をどう説明するのか。

二言目には「市場が、市場が」と言い、「日本は改革が遅れている」とテレビで言い、それだけでギャラを荒稼ぎしていたネオリベギャルの白石真澄や幸田真音はどう説明するのか。

護送船団方式に帰着した米国 - 新自由主義金融帝国の没落_b0090336_9464749.jpg

by thessalonike5 | 2008-09-24 23:30 | 世界金融危機
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