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本と映画と政治の批評
by thessalonike5


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クローズアップ現代の「グローバル・インフレ」と榊原英資の提言
クローズアップ現代の「グローバル・インフレ」と榊原英資の提言_b0090336_11493672.jpg北京五輪の間、クローズアップ現代はお休みだったが、五輪が終わった直後の8/26の放送は75分間のワイド版で、榊原英資と水野和夫をゲストに呼んだ経済特集だった。前回、1/7に放送された特集と同じ構成と企画であり、前回に劣らず面白く、内容が豊かでメッセージも考えさせられるものがあった。この特集はシリーズとなって、今後も年に二度、正月と夏に放送される定番企画になるかも知れない。国谷さんと榊原英資と水野和夫の3人が呼吸がよく合って、盛り込まれている大量の経済情報をわかりやすく視聴者に説明し、スムーズに番組を進行させている。起承転結の構成もいい。それと、前回と同様、NHKの取材が素晴らしくて、世界中を飛び回って豊富なカットを撮影している。映像がリッチで説得的だ。今回は、スペイン、米国、豪州、中国が出てきたが、特に西オーストラリアの映像が中心だった。前回はサブプライム問題を中心とする金融情勢が説明されたが、今回は資源の問題がフォーカスされ、番組の主役は鉄鉱石だった。



クローズアップ現代の「グローバル・インフレ」と榊原英資の提言_b0090336_12324690.jpg導入部は世界は世界を襲っているエネルギーと食料品の物価高で、スペインのトラック運転手の家族の生活苦が紹介され、軽油の値上がりで家計収入が減り、食卓に肉料理を出せなくなったと妻が悩むところから映像が始まる。世界中の先進国の市民がインフレで苦しんでいる。米国のオハイオ州では、休業が決まったGMのトラック工場で働いていた夫婦が紹介され、先に解雇されていた妻が、今後はクレジットカードは使わず、徹底して生活を切り詰めないといけないと嘆いていた。番組はそこから原油価格の問題に入るが、水野和夫と榊原英資が示した解説は、視聴者の期待に反して、原油価格は当分下がらないという冷酷な結論だった。正月の放送のとき、榊原英資は原油は年末までに1バレル60ドルまで下がると予想を述べていたはずだが、半年経って議論を一転し、原油を含めた資源はすでに金融商品になっていて米国の年金基金が長期で資金投入されているのだから、、市場で行われているのは投機ではなくて投資であると言い切った。

クローズアップ現代の「グローバル・インフレ」と榊原英資の提言_b0090336_11502220.jpgこの議論は、7/28の産経新聞の「正論」に榊原英資が載せた解説と同一で、これを見た私は榊原英資の裏切りに仰天、「華麗なる内閣」の財務相を解任した経緯がある。今度はNHKのテレビを使って金融資本による原料穀物投機を正当化してきた。カルパーズが資金を入れているから投機ではなく投資だという議論は明らかに無理がある。年金基金が原油先物に投機をしているところにこそ問題があり、年金基金の保全のためにもそれを規制すべきと言わなくてはならないのではないか。実際に、米国の議会では監視に向けた法規制の準備も始まっている。そもそも、需要と供給が均衡して1バレル30ドルで市場価格が決まっていた原油が、需要が2倍になったわけでもないのに価格が4倍になることが異常で、新興国の需要増の論理からは全く合理化できない。18年前、日本の土地は金融商品になっていて、誰もが土地を欲しがるから需要は無限であり、価格高騰は永遠に続くとエコノミストは言っていたが、大蔵省が渋々と腰を上げて総量規制に踏み切った途端にバブルが弾けた。

クローズアップ現代の「グローバル・インフレ」と榊原英資の提言_b0090336_11504314.jpgところが、われわれ庶民の意思や希望に反して、原油価格の議論はきわめて不本意な方向に展開していて、榊原英資のみならず金子勝までが原油バブル論から転向して、価格高騰をセオリーで合理化し始めている。「世界」9月号にその論文が載っていて、それにも驚かされた。榊原英資と金子勝の二人が原油バブル論を放棄して、この高騰はリーズナブルで今後も趨勢として固定すると言われたら、われわれはどこに新自由主義に対する理論的反撃の拠点を求めればよいのか。まさに暗澹たる気分になるが、そうした今や論壇で支配的になりつつある資源高騰肯定論・投機否定論の言説に対して、唯一、森永卓郎がバブル崩壊必至論で立ち向かっている。これは見逃せない重大な問題であり、この3人の言説については、また記事をあらめて整理と考察を加えたい。が、榊原英資と金子勝の連合軍に対して森永卓郎では、戦力の印象として劣勢の感を否めず、原油バブル否定論の説得力が徐々に浸透して、新自由主義陣営が勢力を回復しつつあるのが現在のイデオロギー戦線の状況と言えよう。

クローズアップ現代の「グローバル・インフレ」と榊原英資の提言_b0090336_1151843.jpg番組はそこから鉄鉱石の問題に移る。鉄鉱石の問題がこれほど詳しく取材されて放送されたのを見るのは初めてで、今回の番組は本当に勉強になった。鉄鉱石の価格がやはり高騰し、トン当たり単価が数年の間に13000円から80000円に上昇し、原料として鉄を仕入れている加工業者のところには現在でも毎月値上げのFAXが届き、通告された言い値で買うしかない。鉄鉱石の3大メジャーの一つである豪州のリオ・ティント社が紹介され、利益がまた増大したと会長がスピーチしている様子が映されていた。鉄鉱石は西豪州で採掘される。その巨万の富がパースに流れ込み、世界中の庶民が生活苦で喘ぐ中、パースが空前の繁栄を遂げていた。市民の30人に1人がクルーザーを所有し、ハーバーはクルーザーで埋まって水面も見えなくなっていた。リオ・ティント社の従来の得意先は日本の鉄鋼メーカーだったが、現在は鉄鉱石輸入国第一位は中国に代わり、旺盛な国内需要に支えられて中国のメーカーが輸入を増やしていた。日本の鉄鋼メーカーに嘗ての力も勢いもなく、赤字で鉄鉱石市場への影響力を完全に失っていた。

クローズアップ現代の「グローバル・インフレ」と榊原英資の提言_b0090336_11513531.jpgその3大メジャーが、さらに資本統合で2社体制へと寡占が進み、供給側が価格をつり上げる仕組みがさらに強固になった現状も紹介された。榊原英資が、「国内だったら独禁法違反ですけどね、世界だから独禁法ないですからね、あははは、」と例の調子で解説していた。鉄鉱石の問題が視野に据えられ、榊原英資と水野和夫の資源価格高騰維持論は説得力を増し、最早、動かしようのない世界経済の前提条件となり、国谷さんが司会する番組の議論は、それでは日本経済はどうすればよいかという方向へ向かった。ここは実に見どころで、榊原英資の論点が冴えわたり、日本の企業と国民に対する、まさに教科書なり指導書の中身を持つ時代認識と問題提起が発せられて行った。榊原英資の提言は論理一貫していて、要するに、安い原料資源の無限供給という前提が崩れ、日本経済は従来型の加工貿易立国のパターンでは国民生活の水準を維持できないという指摘だった。原材料はとめどなく高くなる。一方で製品には価格転嫁できない。高い原材料を輸入して安く製品を売っていれば、作って売れば売るだけ損が出る。赤字になる。

クローズアップ現代の「グローバル・インフレ」と榊原英資の提言_b0090336_11521382.jpgパラダイム・チェンジだと榊原英資は言うのである。どうすればよいのか。次のように日本に提案する。政府は、まず為替を円高に振らなければならない。円高にシフトすることで原材料を安く輸入できる。円安で米国市場に頼ってという為替と貿易の構図は崩れた。次に政府は、これまで企業や商社がやってきた原材料輸入について直接介入して、企業のリスクをカバーしてやる必要があり、資金と戦略のリスクを輸出入銀行が積極的にとる体制へと政策転換しなければならない。原材料輸入について企業に任せず国家が責任を負う。国家が前線に立って保障に乗り出す。そして政府が投資すべき将来産業は農業とエネルギーであり、農業生産力を高め、太陽光や風力など自然エネルギーへの転換を加速させなければならない。企業は、エネルギー効率を上げるべく製造プロセスのイノベーションを行わなければならず、省資源・省エネルギーの日本の技術と企業努力を再び勃興させる必要がある。材料の調達と製品の販売においては、中小企業もダイレクトに海外展開して、商社や仲介業者に依存しない攻めの経営にしなければならない。おおよそ、このような提言だった。

クローズアップ現代の「グローバル・インフレ」と榊原英資の提言_b0090336_11524455.jpg後半の政策提案の内容は悪くない。榊原英資らしい「政策介入の論理」が戻っていた。特に、為替を円高に振れという政策が重要で、これは福田政権と日本銀行は一刻も早く採用して実行しなくてはいけない。政府介入で円高に振って、1ドルを110円から80円にするだけで、膨大な輸入支払減となり、原油だけでなく小麦やトウモロコシや鉄鉱石の仕入価格が低減され、国内事業者の収支が改善される。そこで、さらに、榊原英資は言わなかったが、単に為替介入だけでなく、円の金利を上げるこことだ。異常なゼロ金利が続けられているために、円はドルに対して政策的に安く抑えつけられている。円安ドル高が構造化されている。ゼロ金利に終止符を打ち、円の利上げを発表し、ドルを暴落させ、為替を1ドル70円の線に持って行くこと。この金融政策の発動によって、輸入原材料コストは劇的に下がり、政府が赤字国債を発行してまで無理に原油コスト補填対策をやらなくても済むのである。米国への輸出で外貨を稼ぐ貿易構造を変え、経済を高度化させつつ膨らませる中国、ロシア、インドの市場に付加価値の高い日本製品を輸出して稼ぐ。その新しい国家戦略を設計、定礎しなくてはならない。

クローズアップ現代の「グローバル・インフレ」と榊原英資の提言_b0090336_1340132.jpg前半の投機否定論は大いに問題があるが、後半のパラダイム・チェンジ論には頷くところが多かった。これからはドルの時代ではなく、米国が世界の消費と需要を牽引する時代ではない。榊原英資の提言に沿って国家の戦略と政策を組み立てるべきだ。日本人が生き残るための構想とグランドストラテジーが要る。加えてもう一つ、私の政策提言を言えば、東シナ海、日本海、オホーツク海で本格的に海底資源の再調査をやるべきで、広い経済水域にもう一度目を向けて、財宝が眠ってないか探査検証すべきである。フィリピンやインドネシアの持つ広い領海も探査の対象に捉えるべきで、資源を発見発掘すれば、二国間で権利の条件を策定すればいい。少なくともそこに国家の投資をすべきだ。持たざる国としてインフレに泣き寝入りするのではなく、討って出て持てる国をめざすこと。ロシアが資源大国になったのは、わずか5年前からである。英国が石油大国になったのも、この25年の出来事にすぎない。私がロンドンを歩いた20年前、英国は斜陽の国で、町にも活気がなかった。北海油田で英国は一気に甦った。サッチャリズムの所為ではない。日本も眠れる海底資源を貪欲に探し求めるべきで、政府は国民に希望を持たせるべきである。

クローズアップ現代の「グローバル・インフレ」と榊原英資の提言_b0090336_11532197.jpg

【世に倦む日日の百曲巡礼】

今日の一曲は、1968年の ローリング・ストーンズ『悪魔を憐れむ歌』 を。

原題は『Sympathy For The Devil』。9月になりました。ロンドンのパブを思い出して、ストーンズを聞きたくなりましたね。地下の階段を降りた古い薄暗いパブの店の中に、ミック・ジャガーに顔がよく似た男がいて、ビターを飲んでいたのを思い出します。パブは思っていたとおりのあの雰囲気でした。森嶋道夫の「英国病」論というのもありましたね。岩波新書で読んだような気がしますが。


その英国のダーリング財務相が、8/30付の英紙で「英国経済は60年間で最悪の状況になる恐れがある」と発言。次にニュースの主役になるのはリーマン・ブラザーズでしょうか。

by thessalonike5 | 2008-09-01 23:30 | 世界金融危機
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