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本と映画と政治の批評
by thessalonike5


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「75兆円の経済対策」の嘘 - あまりにも差がある日米の景気対策
「75兆円の経済対策」の嘘 - あまりにも差がある日米の景気対策_b0090336_12412381.jpg来週、政府が事業規模20兆円の追加経済対策の作業を開始する。麻生内閣になって半年間で3度目の景気対策であり、最初に出した08年度2次補正の関連法案(定額給付金の財源法案など)も成立していない段階での、異例の補正予算の編成となる。総額で20兆円と報道にあり、この金額と時期を見ると、解散総選挙の政局を睨んで、さらに次の09年度の第2次補正予算が準備される気配が濃厚に漂っている。要するに、「追加経済対策」の粗製乱造は麻生政権の政権延命策の切り札なのだ。「経済対策」で予算案を組めば、国会で審議せざるを得ず、反対に回る野党に対して「野党が景気の足を引っ張っている」と攻撃できる政論的立場を得る。「1日も早い予算成立が景気回復の鍵」だと言い続けることができる。御用マスコミがその論法で民主党を牽制し、本来なら倒閣に行き着かざるを得ない世論に歯止めをかけ、予算の攻防が政局であるかのような状況を偽装的に演出する。「経済対策」は麻生政権の最も有効な延命対策であり、2か月に1度の頻度で補正予算案が繰り出され続ける。



「75兆円の経済対策」の嘘 - あまりにも差がある日米の景気対策_b0090336_1241368.jpgあまり多くの「経済対策」が次から次に政府から出て来るため、国民は情報の整理が追いつかず、具体的にどのような予算が景気刺激のために編成されているのか中身を明確に把握できていない。これは、実はマスコミに責任があり、マスコミは政府の「経済対策」について、政府の発表を表現もそのままに垂れ流しているだけで、数字と施策の中身を検証した情報を一切出そうとしないのである。新聞でもテレビでも、福田政権時の1次補正から始まって麻生政権の本予算までの3度の「経済対策」を、独自に特集を組んで国民に中身を解説することをしなかった。その代わりにマスコミがやっているのは、定額給付金叩きであり、半年間の間、延々と野党と一緒になって給付金叩きのプロパガンダを続けてきた。政府の「経済対策」の全体の解説や内実の分析はすることなく、関心と論議を定額給付金だけに集中させ、それを効果なしとして非難し続けてきた。新聞やテレビだけでなく、経済情報誌でも、政府の「経済対策」の全体像と真相を捉えた記事はなかった。

「75兆円の経済対策」の嘘 - あまりにも差がある日米の景気対策_b0090336_1241468.jpg福田内閣以来、これまで3度にわたって予算措置された「総額75兆円の経済対策」について、内閣府が作成した資料(PDF)が提供されていて、75兆円の概要を見ることができる。総額75兆円と言われると大きく感じるが、実際には金融措置の枠が63兆円で、財政措置は12兆円しかない。昨年10月30日に発表された「追加経済対策」も、総額は26.9兆円と言いながら、その中身は、信用保証協会の信用保証枠の拡大分14兆円とか、政府系緊急融資拡大分7兆円など、金融市場の安定化に注ぎ込んだ金額が大半を占め、補正予算を組んだ財政施策分は4.8兆円しかない。この中に2兆円の定額給付金があり、高速道路料金の引き下げ分などが入っている。12月19日に発表された09年度本予算の「生活防衛のための緊急対策」も、銀行保有株買取に20兆円、金融機能強化法での政府資本参加に10兆円など、33兆円の巨費が銀行救済の金融措置にあてがわれていて、雇用対策などの財政措置は4兆円でしかない。75兆円のうち、金融措置が63兆円で財政措置が12兆円。GDPを押し上げる効果のある「真水」は、3度の「経済対策」でわずかに12兆円しか計上されていなかった。

「75兆円の経済対策」の嘘 - あまりにも差がある日米の景気対策_b0090336_12415752.jpg12兆円の財政出動のうち、定額給付金が2兆円を占め、単一の費目としては最も金額規模が大きく、給付金こそが政府の景気対策の目玉だったことが了解される。だから定額給付金だけで喧々諤々していたのであり、「総額75兆円」と言っても、景気刺激策として議論の対象になるのは、定額給付金の2兆円くらいしか実体がなかったのだ。他に特に注目すべき景気対策の戦略的財政出動がないのである。12兆円のうち、残りの10兆円の使い道を政府の表を辿って調べると、本予算分で4兆円、2次補正で2.8兆円、1次補正で1.8兆円までは辿れるが、それ以上は雲に隠れて曖昧になり、本当に財政出動で12兆円が計上されているかどうかも怪しい。内閣府の資料には、金額に「程度」という言葉が多用されていて、相当な丼勘定で数字が纏められており、「総額75兆円」を言い上げるための政治的な宣伝資料が作成されていることが察知される。このような「資料」ばかり情報提供されているから、マスコミも混乱して予算の事実を検証する努力を諦め、政府や与党の言うままに嘘の数字を国民に垂れ流して済ませているのである。内閣府の「資料」は掴みどころがないが、全体の印象として次のことが言えるだろう。

「75兆円の経済対策」の嘘 - あまりにも差がある日米の景気対策_b0090336_1242872.jpg3度の「経済対策」は、全てそのときそのときの選挙対策の意味を持っていて、発表してすぐに総選挙があることが意識されている。福田内閣による昨年9月の1次補正(安心実現のための綜合対策?1.8兆円)では、批判が多かった後期高齢者医療制度への「つぎあて」が行われている。10月末の麻生政権発足後の2次補正(生活対策?4.8兆円)では公明党の要望で定額給付金2兆円が入り、民主党のマニフェストを意識して高速道路料金値下げや子育て支援が入った。12月に編成された本年度予算(生活防衛のための緊急対策?4兆円)では、雇用対策が前面に打ち出されていて、派遣切りのラッシュで雇用問題が世間の関心の中心になっていた当時の状況が反映されている。しかし、どれを見ても、経済政策として小手先の規模と施策であり、100年に一度の経済危機に対応する景気浮揚策と言うには程遠い粗末な内容に終わっていて、選挙戦になったときの討論番組で野党に何か言われたときに、「政府は対応しています」という反論を返す目的のレベルの費目と支出でしかない。あるいは、国会のニュースで「野党の反対で景気対策が遅れている」という材料を作るための戦術対応でしかない。

「75兆円の経済対策」の嘘 - あまりにも差がある日米の景気対策_b0090336_12421895.jpgこの麻生政権と日本政府の「経済対策」に対して、総額7870億ドルの米国オバマ政権の景気対策法は、本格的で中身もはるかに充実した内容になっている。金額だけ見ると、日本の「総額75兆円」と同じほどのスケールだが、米国の7870億ドルは全て財政措置による景気対策であり、日本の12兆円(今度の09年度1次補正を加えても18兆円)とは比較にならない大きさである。その中身は、減税が2870億ドルで、公共投資などの政府支出が5000億ドル。減税の内訳は、勤労者向け戻し減税が1160億ドル、中間層への所得税軽減が700億ドルなど。政府支出の方は、失業者支援と医療保険助成の社会保障枠が1930億ドル、高速道路や鉄道などインフラ整備が1200億ドル、教育・自治体向け支援が1060億ドルとなっている。日本と較べて一つ一つの政策措置の規模が本当に大きく、効果がすぐに出るかどうかはともかく、オバマ政権が100年に一度の不況に対して本格的な景気対策で立ち向かおうと本気になっている事実がよく分かる。しかも、この景気対策法を大統領就任1か月で通した。あれほどの共和党の強い反対の中を見事に可決させた。麻生政権は、就任して半年になるが、まだ自前の景気対策(2次補正の関連法案)を国会で成立させていない。

「75兆円の経済対策」の嘘 - あまりにも差がある日米の景気対策_b0090336_12422927.jpgオバマ政権の景気対策の中で注目すべきは減税の政策で、ここには企業減税があるが、わずかに104億ドルしか計上されていない。勤労者向けの戻し減税と中間層向けの所得税軽減が合計で1860億ドルであることを考えると、今回の「景気対策法」における企業減税の比率の小ささがよく分かる。日本では、未だに景気対策として企業減税を求める声が絶えず、マスコミで新自由主義者が吠え騒いでいる。米国の景気対策と見ると、米国の政府の性格が変わったことが一目で理解できる。新自由主義の政策は(少なくとも米国内では)採用されていない。この「景気対策法」はまさしくケインズ主義の具体化であり、だからこそ「大きな政府」を拒絶する共和党の猛反対を議会で受けたのである。米国政府は変わった。この歳出と減税をどのような歳入で賄うか、そしてそこに孕まれる米国債の問題は別として、われわれは日米政府の景気対策の彼我に嘆息せざるを得ない。米国は道路と鉄道のインフラ整備だけで1200億ドルを出し、これは日本の半年間3度にわたる財政措置の全体と同じ額になる。規模が違う。社会保障への拠出も大型だ。日本とは比較にならない。今回、日本政府が9年度予算の補正を早々に打ち出した背景には、この米国の大型の景気対策の影響があるだろう。

「75兆円の経済対策」の嘘 - あまりにも差がある日米の景気対策_b0090336_12424818.jpg日本の実際の景気対策の中身の卑小さを見て、さらに景気の異常な落ち込みを見て、米国の関係当局が問題視を始めて日本政府に指示を出している可能性もある。それが今度の新たな「追加経済対策」の背景の一つではないか。それにしても、たった12兆円とは。米国の1回分の景気対策の6分の1の規模でしかない。米国では7870億ドルでも不足という意見があり、民主党が議会に提出した最初の金額はこれよりずっと多かった(8380億ドル)。おそらく、4月のG20サミットに間に合わせるために、「真水」が6兆円と言われる次の「経済対策」と補正予算が出るのだろうが、G20でも各国から不満が出て、日本の景気対策は小さすぎると批判されるに相違なく、G20の後で第2次の09年度補正予算編成が始まるのだろう。補正予算と景気対策は政権延命であり、小出しにして何度にも分けてやるのであり、官僚が数字を適当に弄くって、国民経済や国民生活に寄与する政策支出ではなく、景気対策や雇用対策を名目にした新しい官僚の無駄遣い機構を作る方策と制度がせっせと構築されるのだ。ただ、米国が変わったことで日本の風向きが変わった。政府は財政再建より景気対策を優先する立場に転換し、隠していた埋蔵金を精力的に使い込むに方向にシフトした。

無論、使った埋蔵金は3年後の消費税増税で取り返す気であり、景気対策の度に与謝野馨が財政規律を言い、消費税増税の世論を描き立てる策略なのだろうが。

「75兆円の経済対策」の嘘 - あまりにも差がある日米の景気対策_b0090336_1243260.jpg

by thessalonike5 | 2009-02-27 23:30
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